アジア文化論I／宗教学 2005/6/17 No. 7

6/17 授業の感想7号と回答

感想7号（総数 103名：県大生 82名，山大生 21名）の結果をお知らせします．「自分の意見が載っている，載っていない」「教員のコメントの内容」などは成績評価や感想の質には全く関係ありません．ただし「感想の内容」は評価対象となっています．

複数の同一または類似の感想は，原則的に最初に目についたもののみを採用しました．

原文の一部を修正したものがあります．

男子・女子の区別は氏名に基づく判断です．もし間違っていたら遠慮なく申し出て下さい．

初期ヒンドゥー教（いわゆる「バラモン教」）から中期以降のヒンドゥー教（いわゆる「ヒンドゥー教」）への変遷を見ていきました．ヒンドゥー教はインドのエートスであり，カーストもインド文化そのものであることも解説しました．

今日の授業で最も感銘をうけたのは先生のカーストに対する考え方です。私はカースト＝差別というイメージを強く持っており、自分の就きたい職業に就けないなんて信じられないと思っていました。しかし今日の先生のお話を聞いてそのようなとらえ方にとても感動しました。私も父の背中をみて育って父と同じ職業を選びました。医師という職業の大変さをよく知っているだけに父は心配そうですが、やはりとてもうれしそうです。（1年女子）
（お父さまもさぞお喜びでしょう :-) ）

ヒンドゥー教＝インドの文化。今日はこの話が一番印象に残りました。ヒンドゥー教は本当にインド人に根付いた文化なのだということが良く分かりました。インド社会はカースト制で成り立っているんですね。私達は自由に職業選択が可能な反面、現在ではリストラで多くの人が自殺に追い込まれています。インドの人々は、生まれながらに職業が決まってしまうのは可愛そうだと思っていましたが、dharmaを果たすために、目的意識を持ち、非効率であったとしても、きちんと職を手にすることが出来るのはいいなと思いました。また、親を神のように考え、親の決めた人と結婚するというのも、最初は可愛そうだと思いましたが、自分の選んだ人と結婚しても、すぐに離婚してしまうようなのよりもずっといいと思いました。私たちはインドのカースト制による身分差別を対話をすることもなく、一概に批判するべきではないし、その資格もないと思いました。（1年女子）
（よく理解してくれましたね．私も説明のしがいがあるというものです．多謝，多謝．）

カーストは差別の制度だから良くないのだと無条件に思い込んでいたことに気づかされました。先生が「カーストがなくなったらインドは壊れる」と言い切られたときには少しショックでしたが、受け入れられなくとも理解し認める努力は必要なのかもしれないと思いました。
今日三大神の映像を見ていてふと思ったんですが、シヴァやヴィシュヌは様々な姿で描かれていますが、男性神、女性神といった区別はあるのでしょうか？？（3年女子）
（あります．次回以降解説します．）

今までヒンドゥー教は宗教としてしか考えていませんでしたが、ヒンドゥー教＝インド文化だと知って、「ヒンドゥー教」の奥深さ知ることができました。そして、私たちが、物事の良い悪いを判断するのは、それぞれに価値観を持っているからなのだと、この講義を通して改めて考えました。来週は「ヴィシュヌ」の「権化」についてだとても楽しみです。「権化」という力があったからこそ、「シヴァ」と並ぶ人気になった要因だということで、その具体的内容がとても気になりました。（2年女子）
（次回はシヴァを見た後にヴィシュヌに進んでいく予定です．）

ヒンドゥー教が宗教というより宗教的な観念やインド人の社会習慣が融合した文化だということが分かりました。宗教というと特定の開祖と経典があり排他的な性格を持ったものをイメージしてしまいます。対してヒンドゥー教は三大神信仰やガンジス川信仰など多様な信仰を認め、イスラムも取り込んでしまう。他の宗教や信仰との境界線が緩いというか平和的な宗教なのだと思いました。（2年男子）
（ヒンドゥー文化は「底無しの胃袋」です．）

カーストについてですが、世襲に基づく排他的職能集団という面では、労働問題にならない、失業しないという面で、他の宗教より安定性があると思います。だからといって効率のよさを求める現代社会では必ずしも全面的に受け入れることはできないので、インド社会の中で根付いているからこそいいのだと思います。それぞれの国に根付いた固有の文化というものは否定することも肯定することもできないものであり、ただそういう世界もあるのだなと新しい発見を与え、自らの考えがすべてではないということに気がつかせてくれるものであれば良いと思いました。（1年女子）
（異文化を知ることは，自分の器をより大きくすることに繋がります．）

ヒンドゥー教がインド人の生き方そのものであることがよくわかりました。私たち日本人がもつ宗教観とはまったく違っていてインドの人々にとってはヒンドゥー教は宗教ではなく生き方そのものであるのがとても印象に残りました。（1年女子）
（インドに限らず，世界の多くの文化において，宗教は生き方と直結しています．日本の方が珍しいのです．しかも，それは日本古来の文化ではなく，明治以降の近代化の中で歪められてしまったものなのです．）

イスラム教徒はイスラムカーストだとおっしゃっていたので、混乱してしまいました。カースト制と言うのは、ヒンドゥー教徒に限るものではないのですか？（1年女子）
（カースト制はインド文化そのものだと申し上げたはずです．インドでは，凝集力を持った実体のある集団は，それがどの宗教の集団かによらずカーストを形成します．）

上のカーストに生まれ変われるように、現世で善い行いをして、生まれ変わった時前より上のカーストであったということを、前世の記憶がなければ分からないのに、記憶は残っているものなのですか？前の自分の魂が後世に続いていくということはないのですか？（1年女子）
（少し文章が乱れています．きちんと記述する練習をしましょう．
　続くものは「アートマン」です．日本風の「魂」と誤解しないでください．アートマンは一切の属性を持たないものとされています．）

インドでは親＝職業の関係が成り立っており、親を尊敬しているからこそ、その職業を継ぐという考え方があるようですが、一方、日本では逆に今の私たち世代の人たちはそうは思っていない人たちがたくさんいると思います。また、親の立場からも、今この職業をしていて、苦しい思いをしているから、この苦労を子どもには味あわせたくないと考えている人もいろようです。先生はこの考えについてどう思われますか？（1年女子）
（職業を，「自分の天職」と考えるか，「自分で選んだものであって，いやならやめてよいもの」と考えるかの違いだと思います．どちらがよい，悪いというものではなく，どちらの考え方の方が安心して生きられるか，という判断で私は考えます．インドでは，その判断が文化の中ですでに行われているわけです．）

今回の講義でカースト制度に対する意識が変わりました。カースト制度は日本で言う昔の士農工商と同じ差別的制度だと思っていましたが、カーストのおかげで、人々の生活の安定を計っていると聞いて、カースト制度は単なる差別制度でなく、もっと奥の深い、そう簡単な言葉では語りきれない制度だと思いました。また、ヒンドゥー教はインド人の生き方、考え方だと聞いて、私たち日本人が考えている宗教概念とは全く違うというこに気づかされました。私たちはそのことを主観的に考えて“おかしい”などという言葉で片付けるのではなく、そういう文化があるんだ、と認めていくことが大切だと感じました。（1年女子）
（一番下の【総評】をご覧下さい．）

インドの人々には三大目標があり、それについての教科書まであることに驚きました。また、これまではどうしてもカースト＝差別というイメージを持ってしまいがちでしたが、今日の講義を受けてカーストに対しての意識が変わりました。カーストによって人々の生活が支えられていて、またそれをインドの人々が受け入れている以上、私達が勝手にそれを単なる「差別」などという言葉で片付けてしまってはいけないと感じました。異文化を学ぶにあたって私達に必要なことは、頼りないわずかな知識でその文化を理解したように思うのではなく、知識を深め、勝手な偏見を持たず、冷静に相手の文化を見つめることが必要なのではないかと思います。　私は高校で世界史を学んでいないので、先生の仰られていた本を読みたいを思い,検索したのですが見つかりませんでした。宜しければもう一度詳しく教えてください。（1年女子）
（山川出版社の詳説世界史をお勧めします．世界史を是非学んで下さい．）

カースト制度は、インド国家によって、インド国民の自由を束縛しているひどい制度だとずっと思っていました。だから、インド国家がカースト制を法によって禁止しているという事にとても驚きました。禁じられているカースト制度が未だにインドから消えないのは、やはりインド国民にとってカースト制度は押し付けられたものではないという証拠だと思いました。また、カーストによって最下層の職にしか就けない人々がなぜ反抗しないのか不思議に思っていたのですが、彼らはカーストを忠実に守ることで、死後、より良いカーストに輪廻できると信じているんですよね。このようなインドの国内でうまく運用されているシステムを、外国がよく理解もせずに口を挟むのはやはりおかしいと思ったし、自分自身も、曖昧な知識で異文化を非難してはならないと反省しました。（1年女子）
（よし，よし (^^) ）

日本での死亡者数で、交通事故では１万件弱、自殺が３万件強と自殺の多さに驚きました。リストラなどのさまざまな苦悩によって毎年３万人の人々が命を絶つことの現実を恐ろしく感じました。先生が、日本人がカースト制を否定する権利はないとおっしゃっていましたが、確かにそうだなぁと思いました。カースト制と聞くと身分を分けて、差別など嫌なイメージが強かったけれど、それだけではないんだんぁと感じました。（1年女子）
（「効率化」を金科玉条の旗頭にして，2万人以上の中高年を自殺に追い込んでいる日本人は，効率化などとは無縁に仕事を（たとえそこに浄・不浄の考えがあるにせよ）分け合っているインドの人たちを非難する権利が最もない国民の一つです．）

前世で悪いことをしたから低い身分に生まれてきたにも関わらず、そのカーストを子供に継がして残そうというのは不思議に感じました。子供も低い身分になるということも、自分が前世で悪いことをした罰からなのでしょうか。また、低い身分であってもその仕事に誇りをもち、リストラになる心配もないために子供が継ぐのが当たり前となっているという解釈でよいのでしょうか。よく、「自分の仕事はつらいから、将来、子供にはさせたくない」という言葉を聞きます。ですがインドではそのような意見がなく、本当にヒンドゥー教＝インド人の生き方なのだな、と感じました。（1年女子）
（跡を継ぐ子孫を残すこと自体が「善業」なのです．）

｢ヒンドゥー教＝インド人の生き方、考え方｣ということを初めて知りました。また、インド文化ができてヒンドゥー教が広められたのではなく、ヒンドゥー教の大衆化が後にインド文化になったことも初めて知りました。インドでは職業を生まれ（＝ジャーティ，カースト）できっちりと分け、親の仕事を必ず受け継ぎ、親の言うことは絶対だという考えがずっと変わらず続いているということは、現在の日本では考えられないし、人々のヒンドゥー教（インド人のエートス）に対する信仰（ヒンドゥー教（エートス）の人々に対する影響）はものすごいなと思いました。（1年女子）
（上の方でも書きましたが，近代以降の日本の方が特殊なのかも知れません．）

今まで私はカースト制を差別問題としてみてきていましたが、今日の講義を聞いて、インドの人たちにはカースト制はなくてはならないもので、決して私たち日本人がとやかくいえるものではないことを知りました。ほかにも私のように思っている人はたくさんいると思います。こういった勘違いで生じている異文化との問題も少なくはないのではないかと考えさせられました。（1年女子）
（「勘違い」のレベルで済んでいるうちはまだましです．中には異文化を理解することなく，（というより，理解をわざと拒み，経済上の理由で）戦争をしかけたりする国もあるくらいですから．）

ふと思ったのですが、インド人として生れ落ちた時点でヒンドゥー教徒になれるわけですが、カースト制に馴染んで毎日を送っていてふと、自分はどうしてこんな制度に従って義務を果たしているのだろうと疑問を抱いたりする人はいないのでしょうか。ヒンドゥー教徒である限り三大目標を放棄する人はでてこないのでしょうか。（1年女子）
（ヒンドゥー文化はインド文化であり，その文化を否定することはヒンドゥー教徒であること自体の否定に繋がります．もちろん，広いインドですからいろいろな考え方はありますよ．三大目標を均等に目指すとも限りませんし．）

相手の文化の全部を肯定することも全部否定することもいけないとおっしゃっていた先生の言葉になるほどと思いました。確かにカーストを前は否定的に考えていて、授業で習ってからは一変して、賛成とか安易に思ったりしていましたが、それは間違いだと気づきました。
インド文化そのものがカーストであり、ヒンドゥー教というのがよく理解できました。そして今まで習ってきたり感じてきたことがいかに少なかったことか、自分で調べようともしていなかったことが本当の浅はかだったと思いました。
三大神が絵を見てどれだか言えるようになりました。シヴァ神の名前は聞いたことがあったりして、さすが知名度があるなと思いました。ヴィシュヌが権化を使ってどう対抗してきたのか気になります。
仏教は真の意味ではインドに根づかなかったけれど、いろいろなところに広まってやっぱりこれもすごいですな。仏教は当たり前の教えというのはわかりやすかったです。
インドの三大目標があるのが驚きました。そしてそれは次のカーストの再生産にもつながること。一番身近な神である親をいたわり、尊敬し、そして親の仕事をつぐことを幸せに感じるインド人を日本もそこから何か見出せたらいいなと思いました。（1年女子）
（よし，よし (^^) ）

世界史でインドのカースト制についてはさらっと習っただけであったので、私はただ差別はいけないと思っていましたが、授業を受けるたびにカーストはただの偏見や差別ではないということに気づきました。インドを支えているとても重要なものなのですね。しかし、インドの人でもカースト制に反対している人はいるのですか。それと、先生のおっしゃった異文化理解に関する考えにとても納得し、感動しました。絶対忘れないです。（1年女子）
（インド人でも，不可触カーストに属する人の一部には，カーストに反対する動きがあります．カーストを支持したガーンディーも，不可触民差別には反対していました．しかし，上の方でも述べましたが，インドでは凝集力を持った実体のある集団は，本人たちがいかに否定しようが，それが社会集団である限り，カースト（＝インド社会）に組み込まれてしまいます．）

カースト制度は人を平等に扱っていない差別的なよくないものだと自分の中で決め付けていました。しかし見方を変えれば、親の職業の価値を認めている、だからそのあとを代々継いでいくのだということがわかりました。日本のように職業選択が自由なこともよいことだけれども親の職業の価値を認めていないとみることもでき、何が正しくてどれが悪いとは一概にはいえないのだなと思いました。どこの国にもそれぞれの文化があるのだから自分たちの価値観だけで判断せずにそういう考え方もあると認めることが大事だということを今日学びました。（1年女子）
（カースト社会においては，人の価値と職業が密接に結びついています．ですから親の職業の否定は，親の価値を否定することを意味するのです．もちろん，カースト社会でない日本においては，親の職業を継がないからといって，即座に親の価値を認めていないということにはならないでしょう．ただし，親の職業を子が継がないなら，子がどんなに「自分は親を尊敬しています」と言ったとしても，その子にとって自分の親は，「自分（＝子）のしたい仕事には就いていない人」であることを認めたことになることもまた事実ではないでしょうか．それは少なくとも「親の全面肯定」ではありません．
　なにも私は「子は親を全面肯定しなくてはならない」などと申し上げているのではありません．ただし，「親を全面肯定する文化」のよさも理解するべきだと思っているだけです．そして，そこからなにを私たちが学んでいけるかを考えていきたいのです．）

【総評】異文化と付き合う場合には，「そういう文化がある」という事実自体は，その文化（＝異文化）を持つ人たちとの関係が大切であれば，どうしても認めていくしかありません．しかしそのことと，「その文化そのものを全面肯定する」こととは全く別のことです．例えばわたしたちがヒンドゥー文化に属する人たちと付き合っていこうとするとき，彼らがカーストという文化を持っている事実は否定することはできません．しかしそのことと，私たちがカーストを全面肯定することとは話が違うのです．
　ここで誤解していただきたくないことは，「インド人と（何らかの理由で）付き合わなければならないから，本当はカーストはおかしいと思っているけど知らんぷりしておこう」ということではないということです．相手の文化を理解するとともに，自分の文化や理解を相手に説明し理解してもらって，お互いの理解をより高い次元において成立させること，それこそが異文化コミュニケーションが本来目指すべきものです．そしてそのためには，前々回も強調したように，ことばを鍛えていくしかありません（外国語の能力とは別次元です）．（鈴木隆泰）

アジア文化論 I／宗教学

 アジア文化論研究室

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