宗教文化研究（仏教文化） 2004/10/29 No. 5

10/29 授業の感想5号と回答

感想5号（総数 72）の結果をお知らせします．「自分の意見が載っている，載っていない」「教員のコメントの内容」などは成績評価や感想の質には全く関係ありません．ただし「感想の内容」は評価対象となっています．

複数の同一または類似の感想は，原則的に最初に目についたもののみを採用しました．

原文の一部を修正したものがあります．

男子・女子の区別は氏名に基づく判断です．もし間違っていたら遠慮なく申し出て下さい．

諸行無常（サンスカーラの無常性）の世界に戻ってきてくれた如来の説法＝方便 upaaya ＝処方箋について解説しました．併せて，中道，空についても説明しました．

最近つくづく人間ものを持てば持つほど苦しくなっていくなあと思います。幸せかどうかは別にしてですが。持ち物は少なければ少ないほどいいと思います。持てばそれについての悩みが増えるのです。例えばパソコンを買ったらその修理もしなくてはならなかったりできるだけものは持ちたくないです。しかし、持たないと人に迷惑をかけることにもなるし一体どうやって生きていけばいいのか苦しいです。迷惑をかけたらいけないというのもサンスカーラでしょうか。分かっていても現実と思想がうまい具合に両立できません。（2年女子）
（下線部：仏教，特に大乗仏教では，他人に迷惑をかけるなとは教えません．なぜなら，人はすでにお互いに迷惑を掛け合っているからです．そういう「ダメダメな状態」から出発し，「自分は迷惑を掛けているのに許してもらっている．だから他人のことも許そう」と思える世界を構築するようにと，大乗仏教は教えます．これが大乗流のサンスカーラの制御（＝止滅）です．）

仏教の教義が、医者の処方箋に例えられていてよく分かりました。そうすると、ブッダは、人を真理に向かわせる名医だったのだなと思います。
　ところで違う話題になってしまうのですが、サンスカーラが一人一人のものの見方、感じ方なのであれば、作家や画家などが物を作り出す行いは、その人のサンスカーラを表現していることになるのでしょうか。それとも、そういった表現は、サンスカーラとは別物なのでしょうか。（3年女子）
（下線部：その通りです．芸術作品も広い意味での「言語表現」の一つですから．芸術家が感得した世界の真理が，芸術作品に投影されて顕し出されたのです．）

釈尊が体験した真実が仏教（私たちが仏教と認識する釈尊の教え）の中でどのように伝えられてきたかが分かりました。ある事象についての見方は決して一様ではない。様々な見方があり、その一つ一つがそれそのものについて言っていることに間違いはないんだと気付きました。言葉で伝えることは常に偏りがちですが、upaaya（方便）という仏教のスタイルは上手にそれを回避しているなと感じました。
　聖地エルサレムについての例が出ましたが、これは日本人にとって決して他人事ではなく、竹島や尖閣諸島などの領有問題は非常に似通っていると思います。「この島は我が国のものだ」と各国が言い争っていますが、どちらが本当だとは言い切り辛いものがあります。そもそも、国境というものが、現代社会に組み込まれた大きなサンスカーラではないでしょうか。そのサンスカーラによる利害関係などによって、各国が頭を悩ませている。スケールの大きい例ですが、これまでに講義で学んだとおりだなと思いました。このごたごたに対する「中道」「空」といった仏教の考えは、問題の解決あるいは、うまく摩擦を回避するヒントを示し得ると思います。（2年男子）
（私たちは今こそ，John Lennon が "Imagine" を通して出したメッセージ“国なんてないって想像してごらん”を，無政府主義的な見方で捉えるのではなく，諸行無常に基づいて捉えてみたいと思います．）

釈尊の教えを聞くためにどんな方法で近づいてもいいというのがとても面白いとなあと思いました。この時点で釈尊はどんな人であっても教えを受けられるということを明らかにしているのだと思いました。私は仏教もキリスト教の聖書のような物があってそれに基づいて人は教えを受けていたのだと思っていたので釈尊が一人一人に処方箋を与えていたという話にはとても感動しました。釈尊が入滅してからは釈尊の変わりとなるような人がいたのかなと思いました。（2年女子）
（下線部：いました．大乗仏教を創った「名もなきブッダたち」です．）

先生が「ことば」の説明のときに多く使っていらっしゃった「みんな違ってみんな良い」という言葉の本当の意味を初めてちゃんと理解することが出来ました。今までは外見や、表現の仕方などが人と違っていても気にするな、といった意味であると考えていました。しかし今日よくよく考えてみると、重要なのはそういった外にあらわれるレベルの前の段階で、その人自身の中身のことを「みんな違ってみんな良い」と言っているのだということに気づきました。言葉や行動にうつす前の自分自身の考えは人それぞれ全く違います。その違いを釈尊は暖かく受け止め、その上人々にあった方法で導いてくれたのですね。この誰もが気づきそうな「人それぞれの違い」というものを釈尊が一番理解し、私たちにそのことを教えてくれ、また手を差し伸べてくれたのだと思います。（2年女子）
（「違い」を認めた上での「絶対肯定，絶対平等」がブッダの世界です．）

キサー･ゴーダミーの例で、ウパーヤのことを初めて知りました。「今まで一度も死人を出したことのない家から芥子の種をもらってきなさい」との釈尊の言葉に対し、先生は、「これは釈尊だから言えること」とおっしゃっていましたが、ウパーヤとは、釈尊や、修行をした人のみが使えるものなのでしょうか？人それぞれに違う処方箋とは、親身になってくれる身近にいる人たちではやはり無理なのでしょうか？（4年女子）
（そうではありません．「釈尊だから言える」と言ったのは，「教説をマニュアル化してはいけない」「相手のことをきちんと見て，応病与薬しなくてはならない」ということを言いたかったからです．あなたに「りんごに向う方向の処方箋を出してくれる」限り，その人は如来と変わりありません．）

真理は体験的なものであるがゆえにことばで言い尽くすことはできない、というのは確かにいえます。りんごの例えはわかりやすいです。しかし、今こうして人間として存在している私達はことばの世界にいるのであり、先生を通して学ぶ釈尊の教義もサンスカーラを発動させて理解をしています。　しかしサンスカーラを発動させて生きているのだ、という自覚がりんごに近づくための一歩だと思います。
　“応病与薬”の話を聞いたとき、釈尊にしか処方できないということは真理を見た世界の人でしか処方できない、ということでしょうか？では現実では“応病与薬”をどのように反映させればよいのですか？　私は、我々に釈尊の真似が出来ないということは薬は自分達で見つけることだと思います。処方箋の話で思ったのですが、一見真理への道のりのために「ことば」の世界に置き換えると人によって矛盾したような法を説くとありましたが、といっても真理はえてして球体のようなものだと思うので180度相反したような「ことば」でも同じ面にあるのだと思います。　真理へのアプローチが様々にあってもいい、アプローチの仕方の一つが仏教であって、宗教ということだと思います。ことばの世界において問題をはきちがえてはならないのは「真理」への接近であるということです。そこを接近へのアプローチにこだわるから宗教対立が起きてしまうのだと思いました。そこを釈尊は説いたはずなのに過去に日本で仏教の中でも対立が起きた、というのは残念なことであったと思います。いかに教義、理想像に縛られて生きているのかが分かりました。　かつて高校の頃の恩師に「こうでなくてはならない」というものに縛られていた私に対して「それでは自分を許すことができない、自分を許すことができなければ人を許すことはできない」と教わりました。初めはなんのことだかわからず、ずいぶん悩みましたが等身大の自分を知ることなんだと思います。私にとってそれは仏教で言うところの「苦」です。己を知ることは非常に怖いです。この世界では人に対してサンスカーラを発動させてしか見ることはできないかもしれませんが、自分自身は一生をかければ見ることが出来ると思います、幾度と無く失敗は繰り返すかもしれませんが。（2年女子）
（下線部：そうではありません．薬を処方するのはブッダ（名医）です．そして私たちは釈尊の模倣をすることができます．一つ上の感想と回答もご覧下さい．）

「性格がいい、悪い」や「美人」とかいったこともサンスカーラを通していることになるのですか？ずっと中道と中庸は同じことを表している、と思っていたのですが、そうではないことを初めて知りました。高校の倫理の授業で、中道と中庸の説明が違っていたのに、中庸とは仏教で言う中道のことである、というような書き方がされていたので、混乱していました。ですが、今日の講義で中道と中庸は違うことが分かったので、誤解が解けました。（2年女子）
（下線部：その通りです．相対化された世界はサンスカーラの活動領域です．
　中庸と中道は全く異なります．これからは他人の誤解も解いていってあげてください．）

仏教の教えは相手によって説き方が変わるため無数あることを初めて知りました。だから、きっと、私にも私にあった仏教の教えがあるのではないのかと思いました。（2年女子）
（きっとあります．そして，それは別に「仏教の教え」でなくてもよいのです．それがあなたに合った処方箋であり，それによってあなたがリンゴに向って進める限り，たとえそれがキリスト教の教えでもイスラーム教の教えでも構わないのです．仏教とはそういう宗教です．）

「りんごの実を食べるためには、どのような方法（過程）でも良いのだ」ということでしたが、それは逆にいうと「りんごの実を食べるためなら何でもあり」ということになりませんか？りんごの実を早く食べたいがために人を押しのけたり、傷つけてしまう人も私はいると思うのですが、そのような事は起こらないのでしょうか・・？医者が患者に出す個別の処方箋の例えは、仏教には無数の教えが存在することの理由（ウパーヤの違い）を非常によく表していると思いました。（2年女子）
（ご質問の件：起こりません．処方箋を出すのはブッダ（名医）であって，あなた（患者）が勝手に選ぶのではありません．そしてブッダの出す処方箋に，他者を傷つけるものはないからです．）

パーリの授業などで先生がアツく語ってくださったことを、また違った形で再び触れることができて、この仏教文化の時間もまた自分にとって濃いな!!と痛感しています(^^)先日、ある友人にゼミのことを話したら、「とらわれるな！っていうけど、『とらわれるな』ってことにとらわれてる･･･って思わない？」というようなことを言われ、「あんたぁ、それが『とらわれてる』ってことだよぉ。そんなふうにひねくれた考え方すんなよ･･･(-"-;)むぅ･･･」と思い、なんだか話すのをやめたくなってしまいましたが、結局いろいろと話しました。昨日のパーリの時間に、「諸々のサンスカーラは無常である。それらをなすがままにしておくことなく、努め励めよ。」という部分がありましたね。これは如来の最期のことばですが、自分の終わりがすぐそばまで来ているにもかかわらず、比丘たちに語りかけた如来の心情は、如来以外、誰も知ることはできないけれど、伝承に残されているその様子から、万人に対する如来の慈悲を感じました。今少しずつですが、法華経を読んでいます。釈尊入滅時に、その場に居た者たちが体験した不思議な感覚というものがどんなものだったか、私のサンスカーラをフルに活動させて想像しているところです。（3年女子）
（「「とらわれるな」にとらわれるな」は，まさにその通りですが，同時に，「「「とらわれるな」にとらわれるな」にとらわれるな」も成立しますから，結局，どこまで行っても終わりがないことになります．これが「ことば」の持つ限界なのです．
　しかし，私たちは「ことばの世界」に生きています．そこにしか生きられません．ですから「ことば」の限界を認識しつつ，できるだけ「とらわれない」姿勢を貫けばよいのです．「完全にとらわれない状態」は，ことばを超えたブッダの領域です．リンゴから離れる方向の「とらわれ」を捨て，リンゴに向う方向の教えをしっかりと守る（その瞬間は「とらわれている」と見られてもいたしかたない），そして自分の状態が変われば，今度はそれに合った処方箋をしっかりと守る，これの連続です．
　大事なことは，ことばを玩ぶ論理ゲームをすることではなく，ことばの限界を知りつつも，「ブッダのことば」に従ってリンゴに向って進むことなのです．お友達にも教えてあげてください．）

例えばシワがたくさんあるお年寄りの方、死体を見て醜いなどと思ってしまうのは私の心の中にその醜さがあって、それを取り除くには自分やがてはそうなるというを受け止められたら醜いということは感じ悪なるのでしょうか？そういう考えを取り除いていくためには一回自分に視点を戻して自分の内面と向かい合っていかなければ駄目なのかな感じました。（2年女子）
（醜さは相手にあるのではあります．相手を醜いと思う世界を構築している自分の側にあるのです．美しい・醜いは相対的なものであり，絶対的なものではありません．存在の絶対肯定がブッダの世界です．ただし，私たちには，そのように世界を見る（言い換えれば，そういう世界を構築する）ことはほとんど不可能です．では，どうするか? それが大乗仏教の課題だったのです．）

ゴータミーの例で、方便の意味がよくわかりました。でも、如来がいない現代では、方便はだれが行ってくれるのですか。先生は、方便は人によって違うものだ、とおっしゃいましたが、どの「処方箋」がどのひとに適用なのかは、真の世界を見た如来にしかわからないことなのではないでしょうか。（2年女子）
（ご質問の件，いくつかの回答ができます．まずは，「今でも如来はいる」という捉え方，他には「自分で処方箋を選んだようでいて，実は如来に処方箋を選んでいただいたんだ」という捉え方，これらが代表例です．）

教説の例で釈尊がゴータミーに出した処方箋の話はゴータミーが子供の死を理解するのに本当にいい方法だったと感じました。子供の死を理解できない親に対して言葉で理解させるのではなく、彼女自身の心からそれを彼女に理解させることができたと思いました。先生があとで付け加えられたように、それは彼女がそれを理解できる人間だったからこそ与えられた処方箋だったと思います。（2年女子）
（その通りです．あれはゴータミー向けの処方箋であって，あれをマニュアル化して万人に適用することはできないのです．）

今日の講義で一番印象的だったのはリンゴの話です！「手段はどうであれ結果が一番重要である」まさにその通りだと思います。私も結果にこだわって生きていこうと思います。（2年男子）
（それは断じて違ーう!!
　結果（リンゴを味わうこと，体験の世界，サンスカーラを制御した世界）はブッダの側だけにあるのであって，私たちにあるのはそこに向うプロセス（ことばの世界）のみです．だからこそプロセス・過程・手段が大事なのです．見たことも体験したこともない結果にこだわることは，無用なサンスカーラを増大させるだけです．今できることは結果に向って進むことだけです．
　一番下の【総評】もご覧下さい．）

今回の講義で、「仏教は固定した教義がない」ということを聞いて、とても驚きました。なぜなら、自分は「宗教にはそれぞれ確固たる教義があるはずだ」と勝手に思い込んでいたからです。これからは、今まで自分が持っていた「仏教」という概念にとらわれず、ありのままの「仏教」を学んでいきたいと思います。　１つ疑問に思ったのですが、５人の沙門は全員サンスカーラを通さない世界、つまり「真実の世界」を見ることができたのでしょうか。（4年男子）
（彼らは見ることができたと，私はサンスカーラを発動して想像しています．）

仏教はしばしば矛盾していると聞き、がっかりしましたが、その意味を知り、安心しました。確かに、『みんなちがって　みんないい』ということばがあるように、一人として同じ人間がいないのなら、一人一人にあう教えがあるはずだと感じました。（2年女子）
（あなたにあう教えもきっとあります．もしかすると，気づいていないだけで，本当はもう出逢っているかも知れません．）

今回の授業の彼岸と此岸についての話を聞いて、一つの疑問が解消されました。鎌倉時代にできた仏教のいくつかの宗派はやっていることが違うので、結局のところどれが本来の仏教の姿なのか？と中学生のころに思っていました。りんごのたとえ話のおかげで、これらは彼岸への近づき方であり、近づき方が変わろうと最終的に彼岸にたどり着けばよいことがよくわかりました。
　ここで一つまた疑問に思ったのですが、日蓮は他の宗派に対して攻撃的だったということを聞いた覚えがあります。釈尊の教えに則っている、もしくは理解しているならば、他の宗派に対して攻撃的であることはないと思います。釈尊の教えに則っていないのですが、日蓮宗も彼岸への近づき方の一つには違いはありません。日蓮宗を批判しているわけではありませんが、こうした側面を持つ日蓮宗は仏教の宗派でありながら、ややずれた位置にあるような気がしました。（2年男子）
（日蓮に関しては誤解が多いようなので，ここできちんと説明しておきましょう．
　日蓮が，その形態がどうであれ，他宗を批判したことは事実です．しかしそれは先に，具体的には浄土宗の開祖法然が「念仏以外では駄目だ」と処方箋を固定していたからです．法然，日蓮，どちらも「今の時代，今の人たちにとって最も適切な処方箋は何か」を求めた結果，法然は阿弥陀仏による救い，日蓮は『法華経』による救いに辿り着きました．そして法然が先に処方箋を固定したために，日蓮はそれに反駁せざるを得なかったのです．また，浄土系の僧侶が権力と結びつき，日蓮の悪評を煽ったことも，今日の一般的日蓮像に影響しているでしょう．）

今回の医者と患者の話はリンゴよりももっと身近な話でとてもわかりやすかったです。人にはそれぞれその人にあった一番いい処方箋があるのと同じで、仏教の教えも同じなのですね。「（人によって違うから）みんな違ってみんないい」という言葉を聞いた瞬間、「あっ！金子みすずだ！」と思いました。まさか仏教と金子みすずさんとがこんなところで関わってくるとは思いもしませんでした。また、キサーゴータミーの話で、自ら体験させ実感させるという手段をとったことには「ナイス！釈尊！」と思いました。（2年女子）
（「ナイス！釈尊！」ですか (^_^;
　全然関係ありませんけど，お坊さんだけで結成されたシャクソン・ファイブというバンドがあります．ジャンルは「仏教ロック」だそうです．）

今回習った「中道」という言葉で、今まで何度も出てきた「ありのままの○○」という考え方がさらに深まったような気がします。私もよく、何かと自分、何かと何かといった形で比べてしまいます。比べることでできた属性によって認識するのではなくて、ありのままに自分や他のものを認識できるようになりたいと思いました。また、みんながこの考えに基づいて、存在することが生きている意味だと考えるようになれば、自殺が減るのではないかと思いました。（2年女子）
（中道も空も，根底にあるのは「諸行無常」であることがよくお分かりいただけたのではないかと思います．）

仏教の教えは教えを説く相手によって内容が違うというところが他の宗教と違ってすごいと思いましたが、病院のような例であてはめて考えてみるとそれは普通なことでした。私は今まで宗教は固定された考えをもつ集団というような考えを持っていましたが、それは偏見だなと思いました。（2年女子）
（また一つサンスカーラが晴れて明るくなりましたね．）

仏教の教えを処方箋と例えた話はとてもわかりやすかったです。教えのなかから自分の答えを探すのではなく、個人個人にあった教えを説く…。すばらしいと思いました。息子を亡くした女性の話のような、仏教に関連する話をもっと聞きたいです。イメージも膨らみやすくとても興味深いです。回を重ねる毎にサンスカーラのことを理解しつつあります。難しいです。私が見ているものはすべてがＡ′だとしたら、と考えると今まで見てきたサンスカーラを取り払い真実の姿を見ようとします。でも、またそれはサンスカーラ。人があらゆるモノを見つめる上でそれがサンスカーラであると認識してみることは大切であると思います。（2年女子）
（その通りです．そうすれば「みんなちがって，みんないい」の世界が顕れてきますよ．）

私は今まで仏教はキリスト教やイスラム教に比べ、多様性を成し様々なものを受け入れるイメージがあった。それは対機説法によるものだとわかって、これまで自分が抱いていたイメージはこのためだったのかと納得し、仏教の教えは個性を大切にしている宗教なんだなと思った。そして、キリスト教やイスラム教の教えでは一人ひとりの個性についてはどうなっているのかが気になった。仏教というひとつの宗教について学ぶにつれて、自分は宗教がどんなものなのかほとんどわかっていないし、知らなかったことばかりだなぁと改めて感じた。仏教以外の宗教の教えについてもどのようなものなのか色々と知りたいと思う。（2年女子）
（幅広く学んでいって下さい．）

ひたすらに現在を生きることしか人間には出来ない。その生きている今を最も大事にしなければいけないと心底から感じることが出来た釈尊は、その場その場で「現在」を生きようとした人物であるのだと学んだ。そのような生き方を実践したからこそ、彼は限定することなく物事を見つめることが出来、あるものがそこに存在しているという素晴らしさや感動を体験することが出来たのであると理解できた。また、この世界に様々な宗教があるのは、それぞれが真理を様々なことばに影しているからであるが、人間は個人個人が別々の存在であるため、一つの教えが絶対であるとは言えないし、真理が違っていても構わないのであろうと思う。その違いが生じるのは当然であるとするのが仏教であると実感した。（2年男子）
（「みんなちがって，みんないい」（by 金子みすず & 釈尊））

仏教はその人その人において、違った処方箋を施して結果的に皆がりんごを食べることができたらよい。つまり、りんごを食べに岸を渡るのに、ある人は泳いで、ある人はヨットで、又ある人は飛行機で、それでいいのだ。というふうに習いました。このことから、とても寛容深い思想なのだと思いました。また、ということは(1)宗教はキリスト教でもイスラーム教でも仏教でも良い、どれも対立する必要はないということなのでしょうか。そうであってほしいと思いました。また、サンスカーラについて授業で学ばせていただきましたが、(2)宗教もまた、サンスカーラの影響を受けているのではないでしょうか。人というものをサンスカーラを作り出さずにありのままを、あるがままを見つめるならば、そこにいること自体で、存在自体で肯定されるものなのだとすれば、(3)この神様だけがあなたを幸せにするというのはサンスカーラの強要なのではないでしょうか。宗教の自由は良いことだと思います、そして違った宗教を持つ人々も仲良くできることこそ、難しいかもしれませんが、本当なのではないかと思います。もしかしたら私の勝手な考えかもしれませんが。今の中東地域を初め違った宗教の宗門・宗派の対立がいつか、このサンスカーラの色眼鏡を外し協調しあう日が来ることを望みたいです。（3年女子）
（下線部(1)：その通りです．リンゴの方向に向う有効な処方箋である限り，その処方箋が別段仏教でなくてもよい，というのが仏教の立場です．
　下線部(2)：マトモな宗教はサンスカーラをプラス方向に利用したものと言えます．例えばキリスト教やイスラーム教のような一神教の場合，「神は万物の創造主であり，自分は神に守られている」という世界を構築し（より正確に言えば，そういう世界を信じる，そういう世界に生きる自分を形成し），その世界の中で安心（あんじん）を得ます．
　下線部(3)：「神あり」の世界の住人ではない人に向って，「神あり」の世界で通用するルールを適用してはいけません．それはご指摘の通り，サンスカーラの強要です．）

今回は、釈尊の説法の仕方を医者に例えて説明してもらえたので、とても分かりやすかったです。確かにすべての患者に同じ治療をしても、その患者にあった治療をしてあげないと健康になることはできないと思います。そして、サンスカーラを通さないでありのままにその人を見ることができ、その人にあった処方箋を出してくれる釈尊はまさに名医なんだと分かりました。
　先生の研究室に処方箋が集められた本がいっぱいありましたが、(1)もし今、その中にある処方箋が全部合わない患者いたら、もう名医である釈尊はいないから、その人にあった処方箋は見つからないままなんですか？それともその中に必ずあるんですか？それから、私はサンスカーラにとらわれないで生きることができないから、いつも他人同士を比べて見たり、他人と自分を比べて、そこで自分や他人の価値を判断してしまいます。自分は自分だとありのままの自分を受け入れて、その存在そのもので意味があると思いたいし、それで私の価値も決めてほしいと思うけど、(2)それができたらブッダの域だからできないと思います。そうやってサンスカーラを通して、人と比べて人の価値を判断して劣等感や優越感を抱いて自分はなんて卑しい奴だって思うけど、きっとそれはサンスカーラにとらわれて生きている限りどうしようもないんだなと思います。だけど、サンスカーラにとらわれない生き方、つまり中道を貫きサンスカーラを取っぱらった状態、空を見られたら、そしてその人が存在していることだけでその人に価値を見出すことができたら、ステキだろうなぁと思いました。（2年女子）
（下線部(1)：あります．如来は今でも無数に出現しているのです．大乗仏教をお待ち下さい．
　下線部(2)：これも結論を出すのは，大乗仏教の説明を聞くまでは急がないでください．）

『なぜ生きるのか？』の問いに今まで踊らされていた気がします。なにか理由があるはずだ、生きている内にその問いを解決しなければと、私達は過去を振り返り、未来に突っ走ろうとします。一番大切で確実な“今”で立ち止まる事もせず・・・。『生きているだけで意味がある』という言葉はあまりにも抽象的で理解する事が出来ませんでした。しかし、今回の授業を受けて、人は自分で世界を作り、そこで存在しているのだから存在自体に意義があるのは当たり前なんだと理解できました。これは、自分を認めてあげることになると思います。他人からどんなに非難されても、自分だけでも自己存在の意味を肯定できることは本当に意義のある素晴らしいことです。他人から見たら私は決して完全になることはないけれど、そんな不完全な自分を大切にしてあげようと思いました。そして、他人の世界の中心になろうとするのではなく、いつまでも自分の世界の中心に居続けたいと思います。　ゴータミーが釈尊に投与してもらった処方箋は、自分で解決するためのヒントのようなものでした。『死人を出した事の無い家なんてどこにもない。だから、悲しいのは君だけじゃないんだ。』とすぐ答えを与えてはいません。確かに、知識は重要ですが、経験を介していない知識はすぐ忘れてしまうし、応用が利きません。時間や労力がかかる方法ですが、このやり方が一番人々の心に訴えることを知っていたのでしょう。そんな釈尊の処方箋は、どんな心の迷いにも利く万能の処方箋である気がしました。（2年女子）
（体験を伴わない知識は移ろいやすく，知識を伴わない体験は危険です．体験を「行」，知識を「学」と呼ぶならば，行と学が相まって進んでいくのが仏教者の歩みです．）

今回の講義では、仏教の核心に触れることが出来たと思います。私たちは「ことばの世界」に住んでいます。だからこそ、ことばの力を過大評価したり、逆に「不完全だから」と軽視したり。このような行為をしてしまいがちです。しかし、不完全だからこそ、それを肯定し、大切にするということ。それこそが意味のあることだと思います。人間も同じです。人間一人一人は皆違います。誰が強く、誰が弱いか。誰が良く、誰が悪いか。それを決めるのも結局人間一人一人のサンスカーラです。つまり、答えはありません。無理に答えを出そうとすると喧嘩になるだけです。戦争の原因もそこにあると思います。ある国から見ると、その集団はテロリスト集団かもしれません。しかし、逆の立場から見ると事態は一変します。結局、「人を殺している」という事実に変わりはありません。ただ、殺す手段が空爆であったり自爆テロであったりするだけです。どちらか一方の立場だけから物事を見たり、考えたりしてはいけません。テロ撲滅のための先制攻撃が許されないように、原理主義に基づいたテロ攻撃も許されません。ことばも体験もどちらも大切なものです。
　私も、体験をしたからこそ見えてくるものがあることに気付きました。例えば私が小学生の時に阪神大震災がありました。私の住んでいたところも震源地に近かったのでかなり揺れて怖かったですが、しかし神戸や淡路島の方々の体験した苦労とは比較になりません。あの時、テレビを視ながら無責任に「大変そうだなあ」と思っていた自分が本当に恥ずかしいです。これは、阪神大震災の事実が変わったのではなく、震災に対する自分の認識が変わった（より正確に言うと、そのように認識している自分が変わった）のだと思います。ただし自分の場合、自分で変わりたくて変わったというよりは、偶然の体験によって変わった（変わらざるを得なかった）といった方が正しいかもしれません。このようにして変わるのは、それほど難しくないです。
　今日の講義でも触れられていたインチキ宗教のよくやる「体験を悪用する」という手口も、まさにそうだと思います。ドラッグを使うとなおさら変わってしまいます。簡単に人を変えてしまうことが出来る「体験」は、実は恐ろしいものです。（正確には、体験そのものが恐ろしいのではなく、変わってしまう「自分」や、それを悪用する「自分」が恐ろしいのですが）しかし、釈尊は自ら考え、自ら行動し、そして自ら変わったという大変厳しいプロセスを経ています。だからこそ、釈尊なのだろうと思います。結局、最後は自ら変わるように努力する。この事実に意味があるのだろうと思います。勉強も、最後は自分で考えてやらなければなりません。厳しいですが、長い目で見ると「自分の為になる」という点で、仏教は素晴らしいものであると思います。（2年男子）
（仏教では，「自ら考え，自ら行動し，自ら変わる」あり方でも OK ですし，「ブッダの力を受けて考えさせられ，ブッダの力を受けて行動させられ，ブッダの力を受けて変わらせられる」あり方でも OK です．要は，リンゴに向って進んでいけばよいのです．）

【総評】一部誤解をしている方もあるようなので，ここできちんと説明しておきたいと思います．

「仏教の教えは，真理をことばに投影したものであり，人を真理に向わせる処方箋です．大事なことは真理に到達することであって，処方箋はそれぞれ違って構いません．」

以上のように説明したところ，「結果こそが大事で，プロセスはどうでもよい．結果にこそこだわるべきだ」と誤解した方があります．

それは断じて違います．

結果は未来です．いわば現時点ではサンスカーラの産物でしかありません．それにこだわるのはサンスカーラに固執することを意味し，ますます自分を縛ってしまいます．より正確に言えば，結果・未来に縛られる自己をサンスカーラで形成してしまうのです．

人間が行動できるのは今しかありません．結果・未来に縛られることなく，今行動することが大事なのであれば，当然，プロセス・過程こそ大切にされねばなりません．

不断の過程の積み重ねを通じて，いつの日か未来（結果）が現在として顕現してくるのです．未来（結果）が大事だからこそ，かえって今（過程）が大事なのです．

決して誤解のないようにしてください．　（鈴木隆泰）

宗教文化研究（仏教文化）

アジア文化論研究室

suzuki AT ypu.jp