アジア文化論I／宗教学 2004/5/28 No. 6

5/28 授業の感想6号と回答

感想6号（総数 165名：県大生 80名，山大生 85名）の結果をお知らせします．「自分の意見が載っている，載っていない」「教員のコメントの内容」などは成績評価や感想の質には全く関係ありません．ただし「感想の内容」は評価対象となっています．

複数の同一または類似の感想は，原則的に最初に目についたもののみを採用しました．

原文の一部を修正したものがあります．

男子・女子の区別は氏名に基づく判断です．もし間違っていたら遠慮なく申し出て下さい．

mok.sa（モークシャ．解脱）＝ ^saanti（シャーンティ．寂静）に至る yoga（ヨーガ．瑜伽．瞑想）と tapas（タパス．苦行．熱力）という二種の行法を説明した後，^srama.na（シュラマナ．沙門．自由思想家）の登場，そして仏教の誕生まで行きました．

(1) 輪廻から解脱して寂静を望むという考え方はよく分かりましたが、解脱して寂静を得ても、生きているから寂静を感じるから、輪廻から解脱することはできないんじゃないでしょうか？そもそもどういった状態が「解脱した」と言われるんですか？
(2) ^srama.na と braahma.na が対立することはなかったんですか？（1年女子）
（(1) 「梵我一如に達した人」「真理に目覚めた人」「煩悩を捨て去り心の自由を得た人」などと表現されますが，実際には自分で解脱してみるしかないとされています．リンゴを食べたことのない人にことばリンゴの味を説明しきることはできませんから．
　(2) 当然対立しています．一般の沙門は「反バラモンの自由思想家」ですから．ただ，その対立はあくまで思想上の対立・論争であって，相手を害したりするものではなかったのです．）

今日の講義で一番印象に残ったのは、ヒンドゥー文化では体を不浄のものと考え、浄化するために苦行したり、死体を火葬してガンジス河に流すことです。火葬というのにそんな意味があったのかと驚きました。日本の火葬も同じ目的なのでしょうか？あと、輪廻転生について、解脱か生まれ変わり続けたほうがいいのかでインド人もわれているそうですが、私は、生まれ変わって前世でできなかったことをやりたいです。（1年女子）
（インドとは異り，日本の火葬は公衆衛生上の問題，墓所の土地の問題などが主な理由です．）

心作用の抑制、寂静である yoga。苦行の tapas。これらは正反対のものなのに解脱となるのか不思議です。（1年女子）
（世界を右に行っても左に行っても，いつかは同じ地点で出逢います．目的地に至る方法はいろいろあってよいのです．山登りにもいろいろなルートがありますよね．）

「老・病・死を避けられない自分を受け入れられない自分」が許せないというのを聞いて、インドの人々はどこまで自分を高めようとしているのだろうかと驚き、また疑問に思いました。（1年男子）
（うーん，あれはインドの人たち一般の話ではありません．仏教の開祖である釈尊という人に関してのお話です．）

神を信じていないこと自体が一つの宗教なのだという話に驚きました。ということは、~~神という言葉を知っている~~人はすべて、何かしらの宗教に属しているということでしょうか。（1年女子）
（「属している」というと語弊があるでしょう．組織だったものばかりとは限りませんから．でも，細かいことを言わないなら，あなたの指摘通りです．）

この授業の欠席届はどうやってだせばいいのでしょうか？この掲示板でしかやりとりができないので、事後になりましたが欠席した旨を報告したいと思います。（1年女子）
（欠席届はこの掲示板システムを利用して結構です．ただし下線部に関して言えば，当然ながら他にも方法はあります．山大の教務事務を通して報告してもらうのが正式ですし（そもそも，どうやってこの科目の履修登録をしたかを思い返しましょう），その書類をあなたから郵送してもらっても構いません．したがって，この掲示板は欠席届提出の一手段ということになります．）

僕はインドではどんな牛でも同じように崇拝されているものとばかり思っていました。しかし実際水牛は悪魔の使いとされ、場合によっては食べることもあるのだと聞いて驚きました。
ガンガーで沐浴している姿はとても有名ですが、この沐浴の習慣も身体は不浄であるという考えと密接に関係しているのではないかと思いました。（1年男子）
（その通りで，沐浴は浄化のための儀礼です．）

インドでは左手を不浄だと考えて使わないと聞いたのですが、やはりこの考え方が現在に残っているのですか？もしそうならなぜ左手なのでしょうか？（1年女子）
（「右手は食事に使から清浄，左手は排泄処理に使うから不浄」などという答えもありますが，本当の正解は「そう決まっているから」です．「右手はもとから清浄なので食事用，左手はもとから不浄なので排泄処理用」なのです．それが宗教であり文化なんですよ．）

私はインドは貧しい国だとばかり思っていたので、実は豊かな国だと聞いてビックリしました。でも今思うと豊かな国だからこそイギリスに目をつけられてしまったのかなぁ？？とも思ってきました。インドは実は国も人の心も清いところなんですね！！（1年女子）
（インドが元来豊かな国だったことは事実ですが，下線部は買いかぶりすぎ．どんな国にもいい人もいれば悪い人もいます．あの××にだっていい人が．．．）

唯物論もまた宗教であるという言葉に感じ入るものがあった。（1年男子）
（「一切は神の創造物である」というのも，「神や霊魂・精神など存在せず，物質があるにすぎない」というのも，どちらも理性や経験では証明できないことがら（＝形而上学的概念）に対する信念であり思弁です．それは宗教に他なりません．）

「宗教文化研究」は山大でも遠隔講義で受けられるのでしょうか？（1年女子）
（「県大と山大の単位互換科目」に指定されているので，山大生も受講できます．ただし，遠隔講義で受講できるかどうかは山大次第です．教務事務に掛け合ってみてください．講義はこの「アジア文化論I／宗教学」と同様に遠隔講義システムのある部屋で行われるので，あとは山大の受信準備ができるかどうかにかかっています．）

インドの人たちは不浄の体を清めるためにガンジス川で、水浴びをしていたのですね。僕たちからすると、いくらからだが不浄のものだとしてもガンジス川のほうが、汚い感じがします。（1年男子）
（宗教上の浄・不浄と，衛生学上の浄・不浄とを混同しないようにしましょう．）

『牛の最上級』で大爆笑したのはぼくだけですか？まあ、日本人の名前も他国の人から見たらどっこいどっこいな気もしますが…。それはそうと解脱するための tapas は辛ければどんなものでもいいんですか？灰をかぶったり、まばたきをしなかったりどう考えても共通点が見あたりません。（1年男子）
（日本で「最上の牛」といったら「松坂」とか「米沢」とかになっちゃいそうですね．．．
　tapas には「実行しがたい」「辛い」という共通点あるじゃないですか．）

ブッダ＝セブ牛。インドの人にとっては最高の水牛・・・でもほかの牛と違って食べられてしまう・・・。なんだか複雑な気分です。（1年女子）
（誤解です．水牛はマヒシャと言います．ガウ（セブ牛．瘤のある白い牛）ではありません．）

インド人は牛という牛は全て食べないものだと思っていたけど、今回の授業で、食べる牛と食べない牛があると知って少し、いや、かなりびっくりしました。今までで、インドについて知っていることを挙げてみろと言われて、自信を持って言えることが、唯一『インド人は牛を食べないんだ』っていうことだったから、それがインド人も牛を食べるだなんて・・・やっぱりびっくりです。あと、驚いたといえば、『諸行無常』がインドから来てるということ。高校の時に古典の教科書に出てきたからこれは日本古来の考え方だと思っていたからです。授業を受ければ受けるほどインドって奥深い！！（1年女子）
（インドにヴェジタリアンが多いのは事実です．そしてヴェジタリアンにも程度というか等級のようなものがあって，動物性タンパクはおろか根菜等まで摂らない「完全なヴェジ」もいれば，乳製品は摂取する人たちもいます．そして完全なヴェジを最上級に，ノンヴェジを下級に置く価値体系は，ほぼそのままカーストの区別とリンクしています．）

食べられる~~食べれる~~牛と食べられない牛がいるなんてなんとも都合のいい話だとおもいました。（3年男子）
（牛だけでなく，世界には「殺してもいい人間」と「殺してはいけない人間」がいるそうですよ．なんとも都合のよい話だと思いませんか? 時事ニュースに耳を傾け，その内容を吟味していけば，インドにびっくりする以前にもっといろいろなことが見えてくるはずです．）

幼稚園児だったとき私はお寺の幼稚園に通ったこともあり、釈尊釈迦つまりブッダの話はよく聞かされました。といっても、浄土真宗のお寺だったので、親鸞上人の話の方が多かった気もしますが。幼稚園では釈迦の誕生日に甘茶を飲んでいました。私はあのお茶が苦手だったのですが、あれは釈尊釈迦が誕生した日に、八大龍王が降らせたものだったんですね。私は八大龍王のすべての名は知っているのですが、龍王にまつわる話を知りません。百科事典で調べても、本を探しても見つかりません。機会がありましたら、詳しい話を聞かせてください。ところで、幼稚園の時に聞いた話で、釈尊釈迦が死ぬ前に、すずめに１番に米を食べていいと許可したと聞きましたが、すずめを田んぼから追い払おうとするお百姓さんは不信心者になるのでしょうか？（1年女子）
（次回お話するはずだったのですが，まずここでやっておきましょう．「釈迦」とは仏教の開祖（ブッダ）が出家以前に所属していた部族の名称であり，元来個人名ではありません．また，「ブッダ」も宗教的真理に目覚めた人の意味で，これまた元来個人名ではありません．したがって，仏教の開祖を表示するときには，「釈迦族出身の聖者，尊者」という意味で，「釈尊（しゃくそん）」と呼ぶのがふさわしいです．
　龍王（ナーガ・ラージャ）に関しては，仏教のものよりヒンドゥー教のヴィシュヌ神にまつわる神話の方が詳しいかも知れません．ちなみに，ナーガ信仰はインド土着の（＝ノン・アーリアンの）信仰です．
　雀の話は初耳でした．そんな遺言は（少なくともインドの伝承では）遺していません．）

ヤジュニャの知識を独占し、隠蔽状態のまま権力を握っていた(1)バラモンは全くの悪者に思えますが、実際そうなのですか。バラモンの動かす社会に疑問を持ち始めた(2)反バラモン思想家は神の存在を否定したことから、バラモンが神と会話できる唯一の人間だという考えが、いかにインドに染み付いていたか分かりました。
ガウタマシッダールタの、老病死が受け入れられないために、それらを必然的に持つ自分の存在すら受け入れられないと言う考えは私には理解できません。けれど、若いころからそのような事を考え、何らかの真相を明らかにしたいと望んでいた彼は、やはり特殊な人間だったのかと感じさせられました。（1年女子）
（(1) 「悪者」っていうより「権力者」です．もちろん「権力者＝無条件で悪者」という等式があるとしたらば，あなたの言うとおりですが．
　(2) 表現上「神の存在を否定した反バラモン思想家もいた」とするべきです．）

死体を焼いて浄化する話を聞いて、ＮＨＫの番組を思い出しました。それに自分の死んだ子供をガンジス川の畔で焼いているお母さんのシーンがありました。僕は「自分の子供が死んで、さぞ悲しいことだろう」と思っていた次の瞬間、インド人の母親は生焼けの子供を足で蹴ってガンジス川に捨てたのです。それもすべて輪廻と浄化の思想からきている事を知り、ようやく納得できました。（1年男子）
（異文化の理解は，何よりこれまでの自分の狭い枠を拡げることにつながります．これからも続けていってください．）

焼いた後とは言え、不浄な身体を神聖な川に流すと川が汚れたりしないのでしょうか… （1年女子）
（聖なる大河ガンガーは全てのものを浄め，（宗教的に）全く汚れることはない，と信じられています．）

単純に考えてガンジス川は相当汚くて、ばい菌もたくさんいると思いますが、インドの人たちは気付かないのでしょうか！？教えを信じる人は自分の意志よりも教えが優先されるのかと思うと、少し怖い気もします。もしも本当に知識がないだけなら、その事実を知ったときにガンジス川で体を洗ったりするのをやめるのかとても興味深いです。（1年男子）
（きれい・きたないの基準は一つだけではありません．公衆衛生上の浄・不浄と，宗教上の浄・不浄が別であってよいのです．同様に，正しい・間違っているの基準も一つではないことになります．）

授業を受けて、いろんなものに対するイメージが変わりました。やっぱり人間は安定を求めるものなんですね。仏教とヒンドゥー教は似ているように思えました。まったく違ったものだと思っていたので少し驚きました。（1年女子）
（仏教も広い意味ではヒンドゥー（＝インド文化）の一つですからね．）

反バラモンが発生して、婆羅門vs沙門沙羅という形になったと言われていましたが、それはヒンドゥー教vs仏教という形ができたということなんですか？また反バラモンとしては仏教だけではなかったようですが、他にはたとえばどのようなものがあったのですか？（2年女子）
（整理してお話ししましょう．
　まず，「仏教は反バラモン」ではありません．仏教は「バラモン対反バラモン」の対立構図の枠外にあります．釈尊は当初，バラモン中心の信仰には拠らない自由思想家（沙門）として出家しましたが．しかし他の多くの沙門が「反バラモン」の立場を鮮明にしていったのに対し，釈尊は「そもそもなぜ思想対立・宗教対立が起こるのか．　それは，私の抱えている老・病・死の苦，自分で自分を受け入れられない苦と同じ根から出ているのではないか」と考えたのです．
　反バラモンの思想には，講義で挙げた道徳否定論・運命論宿命論・唯物論などの他，懐疑論などもありました．仏教と同時期に起こったジャイナ教（あるいはジナ教）も反バラモン思想といってよいでしょう．）

今日の授業で一番きになったのがサンスカーラ~~サンサーラ~~ということです。私が持っている諸行無常のイメージとは全てのものは変化しとどまることはない、という感じです。だから、私の予想ではサンスカーラ~~サンサーラ~~とはヒト、動物、植物、宇宙などをふくめた万物のことではないかなと思います。どうでしょうか？ちょっと自信ありますよ～～(＾ー＾)（1年女子）
（ぶ～～　残念でした (^ー^; ）

仏教には四苦がありますが、ガウタマシッダ－ルタが初めに受けた苦しみは、老・病・死ですよね？生の苦しみはいつから入ったんですか？（1年女子）
（老・病・死の苦は，結局は生に起因します．そこで「生・老・病・死の四苦」というセットが生まれました．ちなみに「生老病死」における「生」とは，
　×　生きること
　○　生まれること
　です．また，仏教のおける「苦」とは，「思い通りにならないことからくるギャップがあって，そのギャップを埋めることができないことから生じる苦しみ」です．）

唯物論で、人間は死ねば何もなくなり、ゴミになるという考えを持っているのなら、お墓を建てたり先祖を祀ったりはしないのですか？（2年女子）
（唯物論の信仰者ならそういうことになります．もし行っているとしたら，その人は唯物論者とは呼べません．）

沙門の思想の中に倫理否定というものがありました。宗教は倫理を形作るものだと自分の中では思っていたのですが…（1年男子）
（ある特定の宗教内で通用する倫理観・道徳観と，他の社会で通用しているそれとが相容れないこともあります．当然，両者間の軋轢が生じることも稀ではありません．）

解脱の方法が二種類あるようになったのはどうしてなんですか？（1年女子）
（ノンアーリアン由来の行法が，大きく分けてこの二つだったからです．）

「諸行無常」という考え方がインドから来たとは驚きました。とは言ったものの仏教はインドから伝わったので不思議ではないですね（＾。＾；）毎回思うのですが、先生は色んなインド語を知っておられますが独学で勉強されたのですか？またよくアジアの方に行かれるのですか？なんでそんなにインドにはまられたんですか？その魅力を一言で教えてください。（1年女子）
（インド語は大学で学びました．アジアは最近はほとんど行く機会がありません．．．
　インドになぜはまったか? それは「インドに呼ばれたから」だと思っています．）

今日の授業で宗教に関する根本的な疑問点、出発点について触れられていたので講義を聞く中で単純な事がすごく深い意味に思えたし考えさせられた。意外と老・病・死などのみんなが嫌がる当たり前の事に対して深く考えていくと問題文としては短くても一生をかける様な難問になり、答えは雲をつかむようなものだと思います。実際は人によって思いや考えが違うので私的な意見としては答えは無数に存在するような気がします。（1年男子）
（答えは複数あってよいのに，「これしかダメ，あとは間違っている」と妄想するところから，不毛な「宗教対立」が生じるのです．）

解脱についてはまだ不思議に思う点があります。なぜ輪廻することで永遠に「苦しみ」が続くと考えるのでしょうか。先生は「インドの人は、楽しみが多かったらその分死ぬ苦しみが大きいと考えた」とおっしゃいましたが、私にはどうしてその「楽しみ」の部分にもっと目を向けないのか不思議でなりません。「今が楽しければいい」と言っているのではありません。そのときある幸せに目が向けられることはあるのでしょうか？（1年女子）
（「今」を提唱したのが釈尊その人です．）

(1) バラモンの権威の低下によって反バラモン思想家が生まれてきて道徳否定や唯物論や運命論が存在するということですがそれぞれが対立して反バラモン思想家の中で対立とかは起こらなかったのですか？
(2) ガウタマ・シッダールタは自らの老・病・死を受け入れることができずに苦しみ、さらにそういう自分が嫌いと苦しんだいうことですが、それが出家の理由になるのですか？今の自分の階級を捨てるのが惜しいとは思わなかったのですか？（1年女子）
（(1) 反バラモン同士も対立しています．赤ペンで書いたのですが見にくかったかも知れません．
　(2) 彼の悩みを解決する方法は世俗になかったからです．彼は階級（というサンスカーラの産物）を捨てることを少しも後悔した形跡はありません．）

反バラモン思想の人達は何故道徳否定までしたのですか？（1年女子）
（従来の価値観を多方面から揺さぶりたかったからでしょう．）

唯物論で宗教を信条しないという人は信条しない宗教に属すると言っていましたが、そうなると自分もたぶん無宗教なので無宗教という宗派に属するということですよね？ということは必ず人間には宗教はつきものなんですか？（1年女子）
（そういうことです．皆さんの多くはいつの間にか「無宗教という宗教の信者」にさせられているのですよ．自分の信仰にはもっと自覚的であるべきです．）

牛が大切にされ始めるのとガウダマ・シッダールタが名づけられるのとはどっちが先だったのですか？（1年女子）
（前者です．もちろん，現在のセブ牛信仰とは少しニュアンスが違っていた可能性はありますが，セブ牛は大事なものだ，という理解は前提となっています．）

講義の中で体に灰を塗りつけている写真が出ましたが、あれはどのような意味があるのですか。体に塗りつけるのは「灰」でなくちゃいけないんですか。何か特別な理由があるんですか？（1年女子）
（「灰」は「火」と関係していますし，古来神秘的な力を持っていると考えられてきたからです．）

前回の授業から「輪廻」や「解脱」について学んでいますが、解脱は、楽になるのでしょうか？解脱にはtapas(苦行）が関係していて、反対に苦痛になってしまうと思うのですが・・・。（1年女子）
（肉体を痛めつけることによって精神を浄化しようという傾向は，人類の文化の中に広く見られる現象です．）

授業中に出てきた沙門ですが、同じ字が入る日本の七福神の一人、毘沙門天と関係があるのでしょうか？（1年男子）
（関係ありません．関係あるとすれば，どちらもインド生まれのことばで，どちらも仏教経由で日本に入ってきたという点です．沙門の原語はシュラマナ ^srama.na で，毘沙門の原語はヴァイシュラヴァナ Vai^srava.na です．）

苦行のお話のときにシヴァの絵を見ましたが、本当に宗教絵画というものはよく考えてあるなと思いました。一枚の神の絵で、宗教のあらゆる要素を描きつくしているのはすごいですね。同時に「濃い絵…」とも思いましたが。(^^;) 諸行無常ってインド発祥なんですね!!中国だと思っていました。ガウタマは、老･病･死が不可避のもので、それを背負わなければならないことが耐えられなかったというように仰っていましたが、私は仏教はそれらを受け入れていくような宗教というイメージがあります。これはただの私の誤解でしょうか。（1年女子）
（いえ，誤解ではありません．でも，その受け入れ方に特徴があるのです．）

神様は本当は弱いと聞きましたが、シヴァは弱いんですか??（1年女子）
（いえ，ヴェーダ（古典ヒンドゥー教の段階）の神は「いまひとつ弱い神」ですが，ヒンドゥー教が大衆化した段階では神は強くなっています．いずれお話します．）

なぜ身体は不浄なものと考えられていたのでしょうか？（1年女子）
（精神と肉体との二元対立の世界では，世の中にある様々な問題点（→これを不浄性に還元）はどうしても肉体側に押しつけられがちだからです．）

(1)インドでは苦行があり熱によって出た不浄なものはながさなければいけないとありましたがどのようなやりかたが主流だったのですか？
(2)また聖者は骨が残っているとありましたが苦行をするからにはみんな生きているうちに悪い熱をながすことはできなかったのでしょうか？
(3)また運命論でよい事をしても悪いことをしても運命は決まっているとありましたがそれでもみんなは自然神などといった神様を信じたり願ったりするのは少し矛盾しているような気もしました。（1年女子）
（(1) 断食が最も一般的です．
　(2) ごめんなさい．質問の意味がよくわかりませんでした．
　(3) 運命論者は神に願い事などしません．）

今回の講義では、反バラモン思想というのが出てきましたが、人々はそれまで、バラモンを神より偉い存在だと思っていたのに、「brahmanってsatyaなの？」って疑うようになったんですか？人の考えってそう簡単に変わるものではないのに、その考えが変わってしまう決定的な事件か何かがあったんですか？（1年女子）
（授業中にお話しした「社会の変化」が一番の要因です．）

インドの人々はイギリスの植民地以前はどのような思想を持っていても迫害されなかったと先生は仰っていましたが~~言ってましたが~~、なぜですか?　また、イギリス植民地を経て今のように宗教が対立するようになったのは、どうしてですか？イギリスなどのヨーロッパではそのようなことが歴史上、たびたびあったからインドを植民地として扱いやすいように、わざと宗教同士を対立させたのでしょうか。いずれにせよ、かつてのインドの文化を植民地という形で壊してしまったんですね。（1年女子）
（いつまで皆さんの言葉遣いを訂正しなければならないのでしょうか．．．
　必ずしもイギリス植民地時代で区切る必要はなく，あくまで目安です．ただし，イギリスの植民地政策が圧倒的に大きな影響を残したことは事実です．　インドにおいて宗教者は「聖者，聖人」ですから，組織的に迫害しようという発想が元来ありません（もちろん，個人レヴェルでの軋轢までなかったとは言っていません）．
　イギリスの植民地政策は，イギリスに対する批判や不満を緩和するため，国内に何らかの対立があればそこを刺激し，より大きな内部対立を起こさせます．）

後半ガウタマシッダールタの話になって、僕仏教系の高校やったんで花祭りなどの宗教行事のときに理事長の坊さんが彼についてしゃべっていたのをお思いだし、なんか高校生に戻りたくなってしまいました。でも、うちの高校の坊主は、伝説的なことばっかり言っていたのでしょせんただの坊主です。（1年男子）
（まず確認しておきたいのは，宗教家であるお坊さんが伝説的仏教神話を語ることは当たり前だということです．下線部から窺える限り，あなたはお坊さんに対して批判的なようですが，本当にあなたが批判したいのはお坊さん一般ではなく，その理事長さんなのではありませんか? もしそうであるとしたら，下線部の表現は別のものに改めるべきでしょう．また，「伝説的な神話を語る人」自体を批判しているのであれば，もちろん，そういう人に対してあなたがどう思おうとあなたの自由ではあります．
　別にあなたがそうだ，と言っているわけではありません．でも，もし「目に見えるものしか信じない」という人がいたとしたら，その人は想像力に欠けた人物であることを自ら告白していることになります．また，人の目は簡単に誤魔化されるものであって，悪意を持った人たちに悪用され続けてきたことは，歴史が示しているとおりです．）

今日も奥が深かったです。解脱するには、本当に大変なんですね。yoga や tapas でもって ^saanti を目指す。（一ヶ月前だったら、このカタカナさっぱりです。）
そして、内なる炎で浄化する。まるで、マゾヒストに近い気さえします。インドには、修行者・沙門が沢山いるそうですが、解脱することは、そんなに大事なんでしょうか。そこに、インドの人が重きを置くというのも不思議です。まるで、生きること、そのものが元々辛いものであるかのように捉えているのでしょうか。だとしたら解脱を望むのは必然でしょうし。ブッダ~~ブッタ~~その人も解脱をしたから、あんなにも有名なんですね。老・病・死この三重苦からは逃れられない、といわれて、はっとしました。しかも、年老いてこの三重苦が押し寄せくるなんて本当に人間の業は深いなと空恐ろしい気がしました。若いときに苦労せよなんてとんでもない気さえします。ところで、ガーンディーは、解脱したんでしょうか。そもそも解脱したというのは他人が見てわかるんでしょうか。それとも自分で「解脱した！」と宣言するんですか。（1年女子）
（下線部：その使い方，極めてインド的です :-)
　ガーンディーは宗教的には解脱したとは言えません．ただし，常人の域を超えていたことは確かです．
　解脱した人には，自分が解脱したことが分かるそうです．ただしオウム真理教などはそのことを逆手に取って，瞑想の一境地に過ぎないものを「それが解脱だ」と誤って教え，洗脳の度合いを増していったのです．）

前回の授業から疑問だった、なぜ輪廻から抜け出すことが解脱なのか？？について明解に答えを教えてくださって~~くれて~~ありがとうございます☆しかし、生と死を繰り返す輪廻の状態を非静寂の状態と考え、そこから脱しようとするなんてことは私にはやっぱり出来ないなと思いました。また世に生を受けられることが出来るのなら、私はやっぱりそちらを選ぶと思います。生きていたいです。すでに私にとって想像が不可能な『死』という現象すら無にしてしまう解脱後の世界、その世界を目指すなんて出来そうにないです。ましてや苦行を行うなんて・・・私はやっぱり生の方に圧倒的な魅力を感じます。
体を不浄とする考えや体は魂の入れ物でしかないという徹底した考えはとても面白いですね。日本にも昔から似たような信仰はあるのに、なぜこうも定着度が違うのでしょうか？？とても不思議に思いました。（1年女子）
（生ある者が，生よりも死に魅力を感じるのは病ですから，あなたの感覚は至極まともです．ただし，解脱は生や死と対になる概念ではなく，生死を超えたところにあるものです．したがってあくまでインド的に解釈するならば，解脱よりも生に魅力を感じるということは，同時に死をも受け入れることと同じなのです．）

ガウタマ・シッダールタについて、不可避な老病死をかかえている自分が嫌だとか、自分を愛せない自分が嫌だと思っていたらしいですが、もっとポジティブに生きようとか思わなかったのだろうか。ネガティブに考えても何もいいことはないと思うが・・・。（1年男子）
（ネガティブに考えることとポジティブに生きることは両立できます．ネガティブをネガティブとして受け入れて生きるときに，そこにはもはやネガティブは存在しないからです．分かりにくいかも知れませんが，この辺りが釈尊の宗教の一番大切な部分なんですよ．さらに言えば，「プラス思考」「ポジティブシンキング」などと言われ，もし自分がそうでないと「あー，自分はマイナス思考ばっかりでダメだ，ポジティブにならないと」と悩む場合が少なくないかも知れません．でも，心配はいりません．釈尊こそ「究極のマイナス思考の持ち主」だったからです．そして彼の到達した境地は，彼自身を救っただけでなく，それから現在に至るまでの二千五百年間に渡って多くの人々を救い続けてきたのです．
　付言しておくと，釈尊のネガティブシンキングは決して「取り越し苦労」なのではありません．人間が生まれながらにして抱え込んでいる矛盾点，通常の人がそれと知りながらあえて目を背けている苦悩，釈尊が向き合った「老病死」とはそういうものだったのです．）

私はずっと、インドはほとんどの人がヒンドゥー教なのに、どこから仏教がでてきたのか？と思っていたのですが、今回の講義を聴いてやっと仏教が生まれたきっかけを知ることができてとてもよかったです。老・病・死は決してさけられないもので、それゆえ私もそうですがほとんどの人がそのことを考えるのをさけていると思います。それを避けずに、正面から嫌だと考えたガウタマ・シッダールタは明らかにふつうの人とは違うと思いました。しかし、仏教がここまで大きな宗教になったのは、やはり多くの人が、考えないようにしていたものの、やはり老・病・死を嫌だと思っていたに違いないとも思いました。（1年男子）
（私もそう思います．）

神の存在を証明できないとともに、神の非存在も証明できない。無神論もひとつの宗教と聞いたときドキッとした。釈尊は仏教の開祖だからすべてを認めていたと思っていたけど、老病死やそんな自分を認められなかったとは意外。でも考えてみればそうだ。認められなかったからこそ悩み、苦しみ、悟りを開けたのだと思う。やはり悩み、苦しみを乗り越えないと幸せにはなれないのかなぁとしみじみと思った。（1年男子）
（♪みーんな悩んで大きくなったー）

「文化」といったときにその文化を所有する人々の思想やそれを自分がどうとららえるのかということを学べた気がします。老病死を避けられないことを認められないということはそれらを含んでいる自分という存在を認められないということだという話には特に共感できました。そんな自分とどう向き合えばいいのか、というかガウタマシッダールタ自身がどう向き合ったのかということを早く知りたいと思いました。（1年女子）
（乞うご期待．予習もしておいてください．）

【総評】次回は一回で仏教を終わらせます．こちらの「仏教とは何か?」のサイトで予習しておきましょう．（鈴木隆泰）

アジア文化論 I／宗教学

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