仏教文化 2003/11/21 No. 8

11/21 授業の感想8号と回答

感想8号（総数 72）の結果をお知らせします．「自分の意見が載っている，載っていない」「教員のコメントの内容」などは成績評価や感想の質には全く関係ありません．ただし「感想の内容」は評価対象となっています．

複数の同一または類似の感想は，原則的に最初に目についたもののみを採用しました．

原文の一部を修正したものがあります．

男子・女子の区別は氏名に基づく判断です．もし間違っていたら遠慮なく申し出て下さい．

聖典編纂会議（結集）の功罪，仏滅後の仏陀観について説明しました．

釈尊は輪廻というものを否定していますが、チベット仏教のダライ・ラマは生まれ変わっています。先代のダライ・ラマ死後、チベットのどこかに生まれ変わったであろうダライ・ラマ捜索をしたり、ダライ・ラマ候補者が教えられていないのに先代の数珠がわかったりということがあるようですが、これはどういうことなのでしょうか？（2年女子）
（釈尊は輪廻を積極的には否定も肯定もしていません．輪廻は形而上学的概念だからです．輪廻を信じている人に対しては，あえてそれを否定したりしませんし，輪廻を信じていない人に強要することもありません．でも，輪廻の観念がが悪しき宿命論（生まれによる差別等）に陥っている場合には，釈尊は断固として拒否しました．
　ダライ・ラマの秘密が私に分かるはずがありません．リンゴの味はリンゴを食べた人にしか分からないのです．）

大乗仏教ができていく中で、その先頭に出家者が立っていたのはある意味すごいと感じました。在家のものにはその方法がなかったため当たり前といえば当たり前なのかもしれませんが、「なぜ？」という疑問が出家者の側から出てきたことは素晴らしいのではないかと思います。
　最後に書かれた教えは何時の世の中にも必要な大切なことなのでは。「有効な処方箋を出してくれる人はイコール仏陀である。」こんな寛容な考え方が人々の心の中にあれば沢山の悲劇は起こらずにすんだのではないでしょうか。でも、有効か有効でないかは一人一人が決めることであるので、そこが難しいところなのかもしれないですね。（3年男子）
（「自分に安心があること」「他人に対して優しくなれること」「他人に強要しないこと」　これらが揃っていれば有効と言えるのではないでしょうか．自分の処方箋を相手構わず押しつけたら危険ですよね．）

仏教では、サンスカーラを使用しないのではなく、悪用しないのであるということが理解できたように思います。りんごを食べる方向を向く（＝涅槃へ向かう）ならば良いということなのですね。それと、五重塔もストゥーパだったとは…。仏教は身近なところにあるのだと感じました…。（2年女子）
（今度瑠璃光寺に行ったときは，以前とは違って見えてくるかも知れません．）

編纂会議の内容はよくわかりましたが、なぜ突然編纂会議が出てきたのですか？あと、仏教の教えが出家者のエリートの処方箋しかないのが残念だと感じました。仏教の教え口伝であるとありましたが、今の世の中では考えられないと思います。今だったら、文字で記さず、口で伝えていったらどこかで違う内容になってしまうと思いますが・・・。当時はそんなことはなかったのでしょうか？イコンについては今日の説明でよく理解することができました。私も物をその人の代わりとして見なすことがよくあります。（2年女子）
（釈尊が入滅したとき，一人の修行者が「やっとうるさい先生がいなくなった．これからは俺たちは自由にやっていける」と公言しました．それを聞いたカーシャパは，このままでは仏教が滅んでしまうと思い結集を行ったと伝えられています．で，これは授業中にも言いましたけど．）

時間は歩み続ける今のみに自分は存在しているため、今現在を大切にしてきちんと行動しなさい。過去は永遠に過ぎ去ったものであり、未来はまだやってきていないものだから、過去の反省や後悔、未来の洞察や不安にとらわれることはない、ということであっているでしょうか？（2年女子）
（過去は反省するものであって後悔するものでなく，未来は洞察するものであって不安がるものではない，です．）

出家者の中でも、修行の進んだ人たち（一部）しか、編纂会議に出席できなかった理由は、在家者や出家者の修行の進んでいない人達が、会議に出席してもついていける能力がなかったからですか?それとも他に、何か特別な理由があるのでしょうか?（3年女子）
（編纂し伝承する能力を持っているエリートたちが，「自分たちだけの仏教にしよう」と考えたとのだと思っています．）

大乗仏教の処方箋の話が出たが、もしかしたらこれが前々から述べられているサンスカーラの発動を抑えることのできない人のための教えなのでしょうか？（2年女子）
（そのため *だけ* ではないのですが，たしかにそういう人に対して大乗仏教は有効であると言えます．）

編纂会議では修行の進んだ出家者だけで編まれたということで、今残っている聖典は在家者が編むよりもより高度な内容になったものなのかと感じました。それとも釈尊は出家者向け、在家者向け関係なく方便を説いたのでしょうか。また、ストゥーパは今まで墓だと習っていて、卒塔婆の婆は墓に入る時には年老いてお婆さんになるからこの字なんだな、と勝手に思っていました。ストゥーパは仏陀そのものということなのですね。（2年女子）
（釈尊は相手の症状に合わせて処方箋を出しましたから，出家者用と在家者用の処方箋（方便）は当然違っていて構いません．
　「ストゥーパはブッダそのもの」，その通りです．）

教義の固定化によって方便が終わってしまい、出家者と在家者の間の崇拝方式の大きな違いを感じたある一部の出家者グループが、大乗仏教を説き始めた・・・ということでしたが、結局、大乗仏教が多くの在家者によって支持されていったところをみると、大乗仏教は大多数の宗教エリート層である出家者には受けが悪く、互いに対立していった、ということを意味するのでしょうか？
イコンはキリスト教の聖人像を描いたステンドグラスみたいなものだと思っていましたが、キリスト教に限らず聖遺物の総称であることを初めて知りました。仏陀の遺骨を争って戦争まで起こったと知りましたが、偽物が出回ったなんてことはなかったんですか？（2年女子）
（大乗仏教も出家者が中心になって作られました．それから，信ずるもの・教え・処方箋が違っても，教団の集団規則を守っている限り，同じ集団の中にいることができたのです．
　釈尊の遺骨を巡って争いが起きそうになりましたが，実際には回避されています．
　偽物ですか．多分いっぱいあるでしょう．）

今日の講義を聞くまで、編纂会議で編纂されたものは経典として本になったのだと思っていましたが、仏教では口伝で伝承されていたんですね。とんだ勘違いでした。編纂会議に出家者の中の特に修行を積んだ一部の人しか出席できず、結果として釈尊の教えを伝承することができたのはその人たちだけであったことは遺憾なことですが、やはり宗教の中では徳の高い人とそれほどでない人との権限は違うものだろうから、このようなことが起こってしまった事実は理解できました。しかし、釈尊は様々な人々に幾通りもの方便を伝えてきたため、人によって釈尊の教えの捉え方も解釈の仕方も違うのに、一部の人々の見方で捉えた釈尊の教えを伝承し、それが釈尊の教えの全てであると思われていたら仏教の本質を見失ってしまうことになりますよね。それは、間違っている気がします。また、今日iconの存在を知りましたが、釈尊の立っていた場所でさえもその対象になることに驚きました。（2年女子）
（「仏教って，これだけではない」と思い至る人たちがいたからこそ，仏教は存続できたのかも知れません．）

先生はどうしてパーリ語を学んだのですか?（2年男子）
（サンスクリット語・パーリ語・チベット語は，仏教を学ぶときの基礎学だからです．）

教義の固定をしてしまうと、処方箋に当てはまらない人は排除されてしまう、仏教はどんな考えの人にもあてはまるように教義を固定していない、というのが印象的でした。日本人の人は大抵、自分は仏教だ、と言言いますが、特徴とかが分かりにくいし、あらゆることに寛容だし、特に定期的に何か儀式を行うことなく、つかみにくいな、と思っていたのですが、今日の教義の固定をしない、ということで、なんか分かった気がします。結局、教義を固定しないので少し違った見方を持っていたとしても受け入れられるし、新しい考えも取り入れやすいし、古くて受け入れられにくい考えはただちに捨てることもできる、”応用性にとんだもの”というのが仏教の特徴の一つでもあるのかな、と感じました。一番最初の方の仏教の授業で、確か先生が他の宗教と仏教との違いを大まかに説明されたと思うのですが、その時に仏教は同じ仏教同士で戦うことはないと言われましたが、それは、“教義を固定しない”ということに大きく関係しているのではないかと思いました。
それと、前回の感想のときに、先生が「釈尊は涅槃界という瞑想状態に入っているので, 他の人々も瞑想によって釈尊に見えることができるという考えです．死ぬことによってではありません」と言われましたが、仏教を信じている人間は、生きているときに瞑想をすると、釈尊のような考え方や外見になる、ということですか？そこらへんが分かりにくかったです。ちなみに涅槃界っていうのは、今でも人々がいう、“あの世”と同じものなのでしょうか。（3年女子）
（あの世も涅槃界もサンスカーラの産物ですから，同じか同じでないかすら議論できません．また，瞑想によってブッダに見えることができたとしても，それだけでその人がブッダの外見になるということはないと思います．）

大乗非仏説は釈尊が仏であるのならば、この説は覆ると説いているが、この場合、大乗仏教は他の仏が説いたとしている。では、いったい大乗非仏説での仏とは誰なのでしょうか。（2年男子）
（結論だけを言ってしまえば，「多くの無名のブッダたち」ということになります．授業で説明する予定です．）

今日の講義は、とても興味深かったです！大乗仏教と小乗仏教という言葉は、高校の日本史の授業で習ったんですが、その深い意味までは知らなかったので、自分の理解との違いに驚きました。「小乗仏教」は場合を考えて気を付けて使います！
仏塔崇拝は、今の私達の中にもある信仰です。でも奉られた遺物が、本当に釈尊のものだとはわからないんですよね。人々は、それらを疑いもなく釈尊のものだと信じて救いを求める。釈尊は今の私達の心まで救ってくれているんですよね。偉大です！　私の周りには、私が困っているときに有効な処方箋を出してくれる人がたくさんいます。彼女たちは、私にとって、ブッダ~~ブッタ~~（救済者）です！！（2年女子）
（仏教の処方箋にも触れ合ってみてください．お友達の出してくれるものとはまた違った処方箋に出会えるかも知れません．）

一部の修行を積んだ者達だけの処方箋は、立場が違う出家者には意味がないものだと気づいて、仏教を変えた大乗仏教はすごいと思いました。難しいけど、私も身近な人が困っていたら、処方箋を出して、救うことの出来る仏陀になりたいと思いました。（2年女子）
（皆がブッダである世界こそ，浄土なのかも知れません．そうであれば，この場がそのまま浄土となり得ることになります．）

イコンの話で思い出だしたのですが、熊本に住む私の祖母は、人からもらったものを普通の人以上に大事にします。私が小さいころ、忘れていったぬいぐるみを私だと思って話しかけたりしていました。まさにブッダがいないときに遺品がブッダの役目をするのと同じだなと思いました。私自身はあまり貰ったものを特別扱いせず、他の自分のものと同じように扱いますが、くれた人に感謝する意味でも、もっと大事にしなければならないかもと思いました。ちなみに祖母は、使い切ったペンを何十本も植木鉢にさして、「赤ペンのお墓」「青ペンのお墓」と言って庭に置いています。まるでペンのストゥーパのようです。（2年女子）
（興味深い話です．でも，厳密に言えば「お墓」と「ストゥーパ」は別物です．）

編纂会議に出席した人の多くがバラモン階級の人だったというのは、元々出家者にはバラモン階級が多かったと言うことですか？（2年女子）
（そういうことになりますね．）

今日の授業の最後に聞いた「処方箋となる教えが仏陀の言葉である」と言う一節に、またしても頭が混乱してきてしまいました。（2年男子）
（では，質問にいらっしゃい．）

未来はサンスカーラだけれども、それが＋方向に作用して今がよく生きられるなら結構・・という発想はとても柔軟で、固定された教義のなかにいる者には出てこないような気がしました。　今日イコンについて教わって、これまでお寺に参ったときに習慣で何となく手を合わせていたのは、教えを知ろうとしなかった私にとっては意味がなかったように思いました。　　神は自分の持ち上げられない岩を創れるのか？の解説が思い出せずに困っています。（3年女子）
（創造主で全知全能である神は，自分で持ち上げられないほど重い岩を創ることができるか? もし創れるならば，神にも持ち上げられないものがあることになるので，全知全能ではないことになる．また，もし創れないならば，その時点でやはり全知全能ではないことになる．　と，こういうことです．）

「有効的な処方箋は全て仏陀のことばである」という言葉がとても印象に残りました。人々を救う処方箋を出せば誰でも仏陀になれるというのはとても簡単なようで出来ないことだと思います。しかしそれを当たり前のようにやってのけた仏陀はやはりすごい人物だと改めて思いました！（2年女子）
（繰り返して言っていますが，当たり前のことを当たり前にやり遂げることは，決して当たり前のことではないのです．）

聖遺物の話はやっぱりなあと思いました。でも、インドではともかく、日本には釈尊の聖遺物なんてないですよね。私たちが手を合わせるのは仏像です。仏像も聖遺物の一種なんでしょうか？仏像に手を合わせるという行為は私には偶像崇拝にしか見えません。これも釈尊が意図した形ではないと思います。偶像崇拝と聖遺物信仰とは何か違いがあるんですか？
それから、パーリ語は現在のヒンディー語とは違うものなんですか？（2年女子）
（パーリ語とヒンディー語は違います．パーリ語は現在インドで使っている人はいないと言ってよいと思います．
　偶像崇拝にせよ聖遺物崇拝にせよ，われわれと神聖なもの（神や仏）をつなぐ媒介・メディアなのです．極言すれば，ことばだって偶像の一つです．それで安心が得られるなら，偶像だろうが聖遺物だろうが問題視する必要はありません．）

聖典編纂会議によって教義が固定化され、処方箋を必要としている人の多様性がなくなってしまうのではないかと思うと残念でなりません。釈尊は固定化を望んでいなかったと思います。そうでなければ彼ならばとっくに固定化していたでしょうから。（2年男子）
（その通りです．釈尊は弟子たちに「自らを頼りに，真理を頼りに生きていけ」と言い遺しています．処方箋を固定化させてはいけないのです．）

「有効な処方箋が全て仏陀の言葉である」という言葉に驚きました。今回の授業を聞くまで「仏陀＝釈尊」と考えていたからです。人々を救う医者ですら仏陀なんですね。そうは言ってもやはり釈尊は病気や怪我ではない心の痛みを持つ人にも処方箋を出せたんだと思うと尊敬するしかありません。有効な処方箋を出せる人は誰でも仏陀になれるとは思いますが、やはり本物の仏陀は釈尊一人ではないかと感じました。（2年女子）
（「本物のブッダとは何か」というのは，簡単に答えが出せる問題ではなさそうです．でも，釈尊一人に限定してしまうことだけは避けなければなりません．それは仏教を「ブッダの説いた教え」という意味だけで理解し，「ブッダになる教え」という意味を否定してしまうからです．）

人々を救ってくれる有効な処方箋を与えてくれる救済者だから、ブッダ~~ブッタ~~として崇められる。だから、人々の心をすくってくれる人物が教祖としているのは当たり前だと思うけど、最近では、人々の心を弄ぶ人や教祖と崇めて、その人のことばをうのみにして間違った方向に進んでしまうことがあると思う(オウム真理教とか)。ただ、その人が偉いといわれてるだけで、その人のことばをそのまま受け入れるのではなく、自分でそのことばが正しい(合ってる)かと考え、そう思えることばを信じていくべきだと思った。（2年女子）
（あなたの意見ももっともなのですが，きちんと判断する材料を持ち合わせていなければ，自分で考えることはなかなか難しいものです．平素より正しい処方箋を持っていることが肝要です．）

(1) 出家者が、仏塔崇拝をしていた在家者に対し｢処方箋を出す必要はないのか？単なるicon崇拝でいいのか？｣と疑念をもったことにより、なぜ大乗仏教が生まれることになったのかがスムーズに理解できませんでした(集中力が足りなかったのだと思いますが)。
(2) また、大乗仏教がなぜ｢有効な処方箋｣と｢仏陀のことば｣の優先順位(？)を逆転させるに至ったのかも、次回以降の講義で詳しく知りたいと思いました。（2年女子）
（(1) その出家者は釈尊を模倣しようとしたのです．
　(2) あれは初期仏典（原始仏典）のことばですよ．パーリ語です．）

第一結集においては、最も長い間仏陀と共に遊行していたアーナンダが記憶していた仏陀の言葉を披露したとされています。そしてその言葉の多くがその後の経典として残ったとされます。仏陀は遊行中に出家者、在家者両方に多くの教えを説いていっていた以上、それを脇で聞いていたアーナンダは出家者用、在家者用両方の教えを結集において披露したのではないでしょうか？それとも、結集の参加者が出家者で構成されていたことからあえて出家者用の教えしか披露せずに済ましてしまったのでしょうか？そこに疑問を感じました。（4年男子）
（たとえアーナンダが諷誦していたとしても，伝承には残らなかったのでしょう．カーシャパが目指したのは彼が求めるエリート向きの仏教だったからです．）

「処方箋となる教えが仏陀の教えである」という言葉は衝撃です。それを言ったらおしまいだといわんばかりの決定打ですね。しかし言葉で伝わる限界というものもありますし、大事なのは釈尊が生きている間になにをしてきたのか、その背景や様々な角度からの考察、そこから私達が何を学びとるかだと思います。
時代を超えて生き続ける釈尊の教え、仏教の奥の深さには感服する限りです。（3年男子）
（興味を持ったのなら，もっと積極的に学んでみよう．）

『有効な処方箋は全て仏陀の言葉である』ということは、釈尊は有効な処方箋を施すことができたから仏陀になったのでしょうか？それとも有効な処方箋を施すことができた釈尊が仏陀であったために、後に有効な処方箋を施すことができる人のことを仏陀と言うようになったのでしょうか？釈尊と仏陀と処方箋の関係が混乱しています…。（2年女子）
（「ブッダ」とは，覚りを得た聖人を指す呼称で，仏教誕生以前よりあったと考えられています．あのことばは，仏教内部で成熟していった思想に基づいています．）

釈尊が遊行中に遊行先で残したものが、釈尊仏滅後に釈尊本人のように信仰の対象になるという話を聞いたとき、直後は不思議な感じがしましたが、よく考えてみるとよくあることのように思えました。信仰の対象というのは特殊な話だと思いますが。それで、質問があるのですが、釈尊の残したものが、信仰の対象となったのはなぜ仏滅後なのでしょうか？地方の人にとってはゼロではないとはいえ、釈尊にもう一度会える可能性というのは極めて低いと思います。それなのになぜ信仰を受けるのは仏滅後なのでしょうか？それともただの話の聞き間違いでしょうか？（2年男子）
（釈尊在世中から信仰されていましたよ．安心してください．授業中にもそうお伝えした記憶があるのですが．）

出家者が教義を固定し学習していったことは、釈尊の教えをマニュアル化していったという言葉はぴったりだと私も思いました。また、仏教は基本的にりんごを食べる方向であるならば、固定化した教えも必要ないのであって心の安心があればいいという仏教の柔軟さというか、懐の広さを改めて感じました。しかし、釈尊は自分が死んだ（入滅した）ときに、これからはだれがその人その人にあった処方箋を出すのかということは考えなかったのでしょうか。ましてや、自分の教えを編纂して残し固定化する恐れがあることについて何も予感しなかったのでしょうか。少し気になりました。（2年女子）
（現在残っている初期仏典（原始仏典，パーリ仏典）では，出家者は自分で自分の処方箋を出せと釈尊は言い遺しているように読みとれます．）

「何であれ、善説はすべてのかの仏陀の言葉である」という理解がよく出来ませんでした。仏陀=悟った人と考えるのであれば、納得が出来るのですが「かの」と書かれているため、仏陀=釈尊と示しているようにも思います。「かの」というのはやはり釈尊をさしているのでしょうか？（2年女子）
（第一義的にはやはり釈尊を指していると理解すべきでしょう．原則的には，まずは「ブッダ＝釈尊」なのです．でも，これはことばが全て釈尊に帰してもらいたいという人向けの処方箋で，もしあなたが気に入らないなら「かの」を取っちゃってください．）

仏舎利塔は地元にもあります。小学生の頃に遠足などで行ったりしていました。釈尊が亡くなってから仏塔崇拝までのような深い意味が仏舎利塔にはあるのだと知って驚きました。日本各地にある仏舎利塔は、単なる伝説のものばかりなんでしょうか。（3年女子）
（全部がそうではありませんが，釈尊の遺骨がそんなにたくさんあるわけはありませんよね．）

釈尊は必ずしも悟ったから仏陀だったわけではなくて、救済者だったから仏陀であった･･･私は今まで「悟る＝仏陀となる」と考えていました。では、(1)悟らなくても人々を救済すれば仏陀になれるのでしょうか？やはり自分に心の安心を得、悟ることで初めて他人を救うことができるのでしょうか？また、(2)処方箋は「言葉」のみだったのでしょうか？
仏教の教えは固定されないということを学び、固定されていないことを説くことの難しさは計り知れなかっただろうなと思いました。昨日の講義で、改めて仏教の奥深さを感じました。（2年女子）
（(1) については次回以降に取り上げる予定です．
　(2) 「釈尊のパーソナリティが投影されたことば」が処方箋です．当然，立ち居振る舞いや態度も含みます．）

入滅後弟子たちがとった教義を固定し、在家者には仏塔崇拝のみをさせるという行動をブッダ~~ブッタ~~は非常に残念に思ったと思います。自身が悟った仏教が間違った形で継承されていったからです。その間本来の仏教なら救われたかもしれない人が、悩みの境地から抜け出せないまま一生を終えてしまったということもあったのではないかと思います。しかし、別のところで、様々な方便があっていいのだという考えを持った大乗仏教というものが生まれたのはまさに仏教界にとって希望の光だったと思います。でも有効な処方箋を与えてくれる人ならみなブッダ~~ブッタ~~であるという考え、そんなに難しくない悩みなら必ずしも悟りを得た人でなくてもいいのかもしれませんが、ブッダ~~ブッタ~~ほど的確な処方箋をだせないだろうからそれにも限度がありますよね。（2年女子）
（ブッタでなくてブッダ buddha です．
　的確で有効な処方箋，たしかに釈尊ほど上手に出せる人は少なかったでしょう．それでも多くの者たちはブッダを模倣していきました．彼らのことを菩薩 bodhisattva と呼ぶのです．）

日本の仏教にさまざまな宗派があるのが前から疑問だったのですが、これは日本に入ってきたのが大乗仏教だったからでしょうか？それぞれの開祖が自分なりの処方箋を作った結果だったのかなと思うのですが。
FF IX、私もやりました。確かに、生まれてきた理由よりも今をいかに生きるかが大事、みたいなところが仏教的だと思いました。
たまに混乱することもありましたが、パーリ語は本当に面白かったですよ！（2年女子）
（「それぞれの開祖が自分なりの処方箋を作った」，ご明察です．
　パーリ語，面白いよね．皆さんにも積極的に履修してもらいたいものだと思っています．）

前回の時点では聖典の編纂は方便の終止につながるのでは…と言うことでしたが、今日の講義で「善説は何であれそれは仏陀のことばである」を知り、仏陀は永遠に存在し続けるものだなと言う感じを受けました。最強の聖遺物は釈尊の遺骨であり、物だけでなく説教した場所もiconになるのであれば、釈尊は遊行をしていたのでインド全土がiconになり得なかったのだろうか…と考えてしまいました。そう考えると釈尊が残していったもののスケールは計り知れないですね。
質問ですが、(1) 出家者が在家者に固定化した処方箋で教化した時、何らかの争いや問題などは生じなかったのでしょうか？(2) 中国や日本で建てられている「～重の塔」は、元は仏塔の土を盛るという行為から生まれたものなのですか？（3年女子）
（(1) 出家者に向って在家者が反発したり争いをおこしたりすることは，インドでは通常はあり得ません．出家者絶対優位の文化なのです．
　(2)「塔」の字は，授業中お話ししたように，土を盛るところに由来しています．でも「～重」の部分は，中国式楼閣建築文化に基づくものです．南アジア・東南アジア・チベット文化圏等には「～重の塔」はありません．）

方便を「こうすれば、こうなる」とマニュアル化した瞬間に、ことばはその力を失うということにとても納得しました。それは、見かけは処方箋のようでありながらも既に「処方箋ではなくなってしまったもの」なのでしょう。生きた処方箋を仏陀が出すことができたのは、仏陀自身、サンスカーラと向き合いながら、その先にあるりんごを見つめていたからだろうと思います。「有効な処方箋はすべて仏陀のことばである」というのも、有効な処方箋を出せるのは、その人がりんごを見つめているからと考えるとなるほど納得がいくような気もします。（4年女子）
（いやー，いい感想文だなぁ．）

出家者が教義の固定をしたということについてですが、釈尊が生きている間に教義の固定をしなかったということから、そうすることは必要なことではなかったと思います。また、これまでの講義の内容から、釈尊は教えを説く相手に合わせて、その人のためだけの処方箋を与えていたという事が分かりましたし、処方箋というものはその人に合ったものだからこそ「処方箋」と言えると思います。つまり、教義は固定されてしまった時点で処方箋でなくなってしまった、そんな気がして残念です。でも、釈尊の教えや伝えたかったことは死んでしまったわけではない、今も十分生きていると思います。釈尊の「言った」ことを固定化されてしまったとしても、釈尊の「姿」から学べることがたくさんあるのではないでしょうか。だから今の私達に出来ることは、例え現在処方箋を与えてくれる仏陀がこの世にいなくても、仏陀の説いた言葉、教義を参考に、その言葉が言われた背景を踏まえた上で仏陀の姿を捉えて、私たちが自分のものにして自分に合った処方箋を作っていくことだと思います。自分以外の人の処方箋を作るのは難しいですが・・・（4年女子）
（いやー，これもまたいい感想文だなぁ．）

【総評】

ya.m ki~nci subhaasita.m sabban ta.m tassa bhagavato vacana.m arahato sammaasambuddhassa (AN iv. 164.7-9)
（なんであれ善く説かれたもの（善説，有効な処方箋）は全て，かの世尊・応供・等正覚のことばである．）

このことばを前にして何をか言わんや，です．仏教っていいなぁ．（鈴木隆泰）

宗教文化研究（仏教文化）

アジア文化論研究室

suzuki AT ypu.jp