2002/11/1 No. 4

11/1 授業の感想4号と回答

感想4号（総数 76）の結果をお知らせします．「自分の意見が載っている，載っていない」「教員のコメントの内容」などは成績評価や感想の質には全く関係ありません．ただし「感想の内容」は評価対象となっています．

複数の同一または類似の感想は，原則的に最初に目についたもののみを採用しました．

原文の一部を修正したものがあります．

男子・女子の区別は氏名に基づく判断です．もし間違っていたら遠慮なく申し出て下さい．

今回も引き続き「サンスカーラ」についてです．「りんごの例え」を用いて，覚りの境地を伝えることの不可能性を示してみました．

疑問だらけの授業でした。講義の中で「他者との関わり無くして仏教なし」のような内容かと思ったら、悟りを開いた釈尊の人々に対する無慈悲さ…。客観的な世界に踏み入れた釈尊は、解決のない問題について争う人々のことをどう感じていたのだろうか。（3年男子）
（「自分の思ったとおりでない」感触が味わえたでしょう? 彼は「人はそれぞれのやり方で涅槃を得ればよいし，それしか方法はない」と考えていたのです．それでも彼が説法を決意したあたりが，やはり「釈尊の救済者たる由縁」なのですよ．）

成仏というのがどんなものかよくわからなかったのでおしえてほしいです。（2年女子）
（私も成仏したことがないので分かりません．また，たとえ仏陀であっても，成仏そのものを他の人に教えることはできません．まだ成仏していない人は，成仏についてどんなに教えてもらっても，サンスカーラを発動させて想像するしかできないからです．）

先週、心の平安、安心についてよくわからなかったけど、今日の説明を聞いて先週よりはわかりました。安心に向かう限り、教えは何でもよいというのは、その人独自の宗教になって、おもしろいとおもいました。ひっちゃかもっちゃかでしたっけ？やんちゃるもんちゃる？あれもたのしかったです。（2年女子）
（それってやんちゃるモンちゃ ?? (^o^;　）

先生の授業を聞いて、なるほどなあと思い、自分としては理解したつもりでも、それもまた釈尊に言わせれば僕は100％理解はできていないんだなあと、自分の都合のいいように解釈しているんだなと思い、仏教はとても奥が深すぎて頭が混乱してきそうでした。元気なときは過去のことを後悔しても仕方ない、未来のことを不安に思っても仕方がないって思うけれども、実際に悩んでいるときはなかなかそのように考えられないものだと思います。それを釈尊は実際に実行し、しかも初めてそれをしたというので、本当にすごい人だと思いました。（2年男子）
（「分かっちゃいるけど止められない」のが人間．そのために仏教にも，サンスカーラを利用した様々な救済があります．この講義で順次紹介していきます．）

過去に後悔し、不安をかかえこみいつまでもウジウジしていても未来は来ないなどということは何かの歌文句のようにありふれた考え方ですが、そのように皆が悩むようなものであるからこそ、サンスカーラを押さえ、それを見事に断ち切るということを実践した釈尊にあらためて尊敬の念を抱きました。“覚り”の部分といい、段々釈尊のことが理解できつつある気がしています。（2年女子）
（それは素晴らしい! ）

宗教は人間の不安を取り除き、安心をもたらすためのものである。そのために教義を設け、真理を求める。釈尊はサンスカーラを捨て去り、形而上学的問題に悩むことをやめることによって心の平安を得た。多くの宗教が形而上学的問題にとらわれ、正統や異端、神のあり方や祭祀の方法などにこだわり、争っている（もともとの教義を離れた仏教も含めて）。そういった形而上学的問題点と、実利的問題点が密接に絡み合い、宗教は人類の平安という根本目的を忘れているのではないか？（3年男子）
（宗教的な問題と政治・経済的な問題がごちゃごちゃに絡み合って，ちょっとやそっとの努力ではどうにもならない状況に陥ってしまっている例が多々あります．解決できないまでも，問題点をきちんと整理し，これ以上ややこしい状況にならないようにしていくことはできると思いますし，やっていきたいと思っています．）

釈尊が仏陀になった状態を自分ひとりで楽しんで、他の人に説こうとしなかったということに違和感を感じたのだけれど、これは釈尊に対するサンスカーラが私の中で働いていたからといえるのでしょうか？それとも、こういうギャップはサンスカーラが働いたとは言わないのでしょうか？
　私はりんごを食べたことのない人間なので、りんごを食べた釈尊の見た（サンスカーラを通さない）世界がどんなものだったのか興味があります。もし私がサンスカーラを通さず世界を見ることが出来たら、今とどんな風に違って見えるのかと考えたら、怖さと同時にわくわくする感じもあったりします。（2年女子）
（そうです．「釈尊はこういう人だろう」というサンスカーラを持っていたあなたが，「そうではないかも」という事実に出会って gap を覚えて違和感を感じ，さらに釈尊が説かなかった本当の理由を聞いて，再度サンスカーラが壊れていった，という過程を辿ったのです．）

実家で毎朝・晩に母と祖母がお経をあげていたので、この授業で同じ言葉を聞く度、「おっ」と注目してしまう。今日聞いた六波羅蜜という言葉もそうだ。何かお経を解読しているようで楽しい。あと、菩提樹の木は、本来違う名前だったなんて全く知らなかったので大きな驚きだった。後悔や不安が人生においてなかったら、どんなに楽しく生きられる事だろう…と思った。（2年女子）
（『般若心経』でしょうか? 玄奘訳は正式には『（仏説）般若波羅蜜多心経』です．）

他人に覚りを説いたとしても、それを完璧に理解できる者はいないし、重要なのは覚りの境地を語って聞かせることではなく、そこに向かおうとすること。「覚り」は自分自身でなければひらくことはできないものなのだろうと思いました。釈尊がどのように説いたとしても、それは意味がないことのように感じました。（3年女子）
（そうではないんです．完全には伝わらないけれど，他人になにがしかを伝えるためには，やっぱり「ことばを介さなくてはならない」という現実に直面するのです（ここでいう「ことば」は，単に口から出てくる言葉のみには限りません）．）

梵天というのは何なのかはっきりわかりませんでした。（2年女子）
（梵天 Brahmaa はヒンドゥー教でヴィシュヌ，シヴァと並んで三大神と称される神さまです．バラモン哲学の言う宇宙原理ブラフマン brahman から派生しました．）

「りんごの例え」が分かりやすかったです。確かに、自分が分からないことについて相手がどんなに説明してくれても分からないことがあるし、反対に自分がどんなに説明しても人に通じないことがあるなあと思いました。この前の「毒矢の例え」も分かりやすかったのですが、これらの例えは、鈴木先生が考えだしたものなんですか？（2年女子）
（「毒矢の例え」は実際の仏典にあります．「りんごの例え」は数年前から使っているのですが，どこから持ってきたのかよく分からなくなってしまいました．私のオリジナルの可能性もあります（ちょっと曖昧です）．）

釈尊が、他の人に教えを説かなかったというのが意外でしたが、教えを説いてもサンスカーラが生じ、うまく伝わらないと考えたからだというのを聞き、ただ単純に教えればいいと考えるのではないところが、覚りの境地に達した人らしいと思いました。本当に理解するためには、実際にその場所にたどり着けばいいというのは、単純なようで、なかなか考え付かない気がします。あと、六波羅蜜というのがよく分からなかったので、もう一度説明してほしいです。（2年女子）
（六波羅蜜は「六つの完成」または「六つによる到彼岸」を意味しており，大乗菩薩の代表的な実践徳目です．詳しくはいずれ授業でやりますので心配しなくて大丈夫です．）

心の平安を得るには手段は関係ない，過程は違うが目的地は一緒という考えは、とても単純明快でわかりやすいです。ただ、他の宗教だと、神観念のせいか、神が、その手段をどう考えているか、ということが問題になってきます。仏教にはキリスト教的な神観念がないとのことですが、それは現代においても変わらないのですか？仏教についてはまったくわからないのですが、釈尊が神格化されて釈尊の言葉＝教義という考えは、仏教の中では生まれなかったのでしょうか。（3年女子）
（「釈尊が神格化」というのは微妙な表現です．誤解を招くといけないので，授業中に取り上げることにしましょう．それから，「釈尊のことば＝教義」という発想は当然ありました．覚りに至る手段は様々でよいので，「釈尊のことばに頼ってりんごに至ろう」と思った人も当然いたからです．）

釈尊は悟りにいたるための道を特に定めていないというお話に納得です。我が家の宗旨は一応、浄土真宗です。このたび新しく仏壇を購入するにあたり、我が家が檀家として入っているお寺からは別段なんの指示もなかったのですが、仏壇屋さんの話によると、お寺によってはあれこれ「どこそこの総本山に行って阿弥陀様の絵を頂いて来なければならない」などの注文をつける所もあるんだとか。大切なのは仏壇の仏具より本人の信仰心だと私は思うのですが、最近ではお寺と仏壇屋との金銭的つながりなどもあるらしい。こうした仏壇またはお墓に関する「迷信」はお年寄りが頑なに守り続けているのです。（4年女子）
（下線部，その通りです．でも，人によっては，仏具を通じて信仰を温めている人もいるでしょう．その人たちがそれで安心して前向きに生きていけているなら，その生き方を否定する権利はないはずですね．）

今日の講義とても分かりやすかったです。先生の講義は‘例え’とイラストを使って説明がなされているので理解しやすいのです。今回はリンゴの味を使った例えでしたが、ヘッチョコでモッチョコな感じっていうのには笑わされました。今回の、リンゴを食べに来てくれるのならどんな方法でもよい（＝覚りの方向に向かっていれば、どんな教えでも良い）って云うのは1回目の講義で仏教は森林型だということの説明の時のイラストに書かれた内容と同じですよね。（2年女子）
（よくお分かりで!! (^^) ）

仏教がとても多くの教義を持っていることに納得しました。たどり着くまでの方法より、たどり着くことこそが大事である、ということがりんごの例えでよく分かりました。ただ、何事に関しても、結果はもちろん、たどり着くまでの過程も大事なのではないかと思います。過程があるからこそ結果が生まれ、そして発展していくのではないでしょうか？仏教は難しいですね。釈尊は本当のところどう考えていたのかなと思います。（2年男子）
（私の説明の仕方が悪かったのかも知れませんね．仏教では，過程はどうでもいいなどとは言ってません．ただし，目的地にたどり着く，もしくは目的地の方向に進んでいくことが何より大切なので，過程にとらわれて目的地から遠ざかってはいけない，とは主張します．）

菩提樹の名前の由来に釈尊が関係しているとは知らなかった。仏教っぽいとは思っていましたが。「釈尊は相手のことを理解するから言うことが的を得ている。」確かにその人のことをしっかり知らないと、助言もいい加減になってしまいますよね。話は変わりますが、人にはどうして爪があるのでしょうか？？昔の人は爪をどうやって切っていたのでしょうか？？気になって仕方がありません。これは形而上学的な疑問では…ないですよね。（2年女子）
（百科辞典を調べてみました．どうやら小刀や砥石で切っていたみたいですよ．形而上学的な疑問では…ないですね．疑問に思ったらまず調べてみましょう．）

釈尊はサンスカーラを排除し、現実を直視したとあったけど、その境地はどんなものなんだろうと考えてしまいました。先入観を持たず、分からないものは分からないものとして目の前にあるものをありのまま見る…もしも釈尊に出会ったら私は彼の目にどのように映るんだろう。（2年女子）
（きっと ありのままに yathaabhuuta.m 映るでしょう．）

りんごの例えが興味深かったです。必ず、話者が話したこととそれを受け取った側の捉え方にはギャップが必ずあるのだから、手段はどうでもいい、要は、どんな方法でもたどり着けばいいという発想がために、仏教には色々な種類のものがあるというのにとても納得した。そのようなどんな手段でもたどり着けばいいという教え(?)があるから、(日本の)仏教徒は色々なものを受け入れやすいのですかね～?例えば、クリスマスのように、キリスト教のものも、涅槃に至るための手段のつもりで受け入れた、というわけではないのだろうと思いますが、どこかそういった感覚から何でも受け入れられるところがあるのでしょうか???釈尊の教えにたどり着くのであれば、他の宗教のいいところもたどり着くための手段として受け入れられるのかなあと思いました。どうですか？（2年女子）
（日本人の多くが，クリスマスや結婚式にはキリスト教式，初詣は神道式，葬儀や年忌は仏式でと，ある意味で「節操のない (^o^;」態度を取るのは，仏教の本当の教えが浸透しているからではないでしょう．何となく「なぁなぁ」な感じが日本人にはあるのではないでしょうか．これは今後の研究課題の一つなのですが，そういう「日本人の感じ」を，自分としては大切にしていきたいと思っています．）

初め釈尊は自受法楽になり教えを説こうとしなかった、その理由を聞いたとき、ちょっと「やっぱりな」と思いました。でも考えてみると混乱します。自分では「やっぱりな」と思っても釈尊とまったく同じ意見ではないだろうし、先生の講義だって先生の解釈で仏教を伝えているだけで…それも私たちは自分なりに受け止めている。どこにもかしこにもサンスカーラが取り巻いてて何が真なのか分からなくなってきました。・・・こうやって考えていること事態サンスカーラに惑わされているような…（2年女子）
（悩まなくてもいいです．安心して生きられれば，それが真実です．）

今日の授業で1番印象に残ったのは「他者との関わりなしに完成はない。」という言葉です。仏教にしろ他の宗教にしろその宗教の根底まで理解する事は無理だろうけどどの宗教でも人間は人と関わって生きる事に変わりないんだと思いました。人との関わりあっての宗教、人との関わりあっての人間なんですよね。（2年男子）
（激しく同意!! ）

今日のりんご＆ヘッチョコモッチョコの例えは本当に理解しやすかったです。釈尊がはじめ、教えを説かなかったと聞いて、なんでだろうと不思議に思ったけど、あとからの話で「おおっ、なるほどっ」と思いました。私も、いろいろな授業で先生の話を聞くとき、自分が全く知らないことについて先生が話されていると、それがどういうものなのか見当がつきません。そういう時は、後で、辞書やインターネットなどを使って調べますが、私はそれらを使って事柄を理解しますが、他の人たちは、違うものを使って理解するかもしれません。いずれにせよ、調べる方法は違っても、行き着くところは同じなんですよね。（2年女子）
（正しい手段に則っている限り，行き着くところは同じです．）

今日の「ヘッチョコモッチョコの例え」は自分自身に当てはまる具体例だったので面白かったのと同時に分かりやすかった。（リンゴの味を知っている私にとっては「リンゴの例え」よりもストレートで分かりやすかった。）この例えの意味が分かると、釈尊がどうしてすぐに教えを説かなかったのか、またどうして仏教にはキリスト教などと違って様々な教義本があるのかなどがはっきりと見えてきた。全ては極力サンスカーラを起こさせないようにと配慮した結果だったんですね。そこまで考えた釈尊を改めてすごい人物だと感じた。（2年女子）
（すごい人ですよね．）

自分が経験したことの無い物事は説明されても理解できないし。ならば当然、自分が出来ないことを他人にしてくれと頼むのは不可能だから、出来るだけ、リーダー的な役割になったときには押し付けないように、それでいて、他の人の言葉を理解できるように、と心がけているつもりですが、なかなかうまくいきません。説明しても無駄だとわかっていても、わかってほしくて、わかってあげたくて・・・無駄なこととは知りつつも、つい、きついことを言ってしまう私って、馬鹿なのよね。と思いながら今日は授業を受けました。私にとってこの講義は自己反省の時間となっているのです。（2年女子）
（難しいかも，ひょっとしたら無理なのかも，と思いつつもやらざるを得ないのが人間ですし人生です．釈尊も結局はことばに頼らざるを得なかったのですから．　誠実に前向きだったらきっと大丈夫だよ．）

心の平安が乱されるとき、その心に決着をつけるのは結局のところ自分しかいない。釈尊の語る助言が適切なのは、自分の納得できる結論を、自分で導くことができる助言だからだと思う。納得できれば心が少しは安らかになりますよね。「悟り≒心の平安」かなと思ってみたり。（2年女子）
（それも一つの覚りの解釈ですね．でも，覚りも，その覚りに行き着く手段も千差万別であってよいはず．）

りんごのたとえのお話、すごく解り易かったしおもしろかったです。こういう風に学んでいけたら楽しくていいなと思います。ところで、先生は手塚治虫の『ブッダ』読まれましたか。私は以前読んで、多少おもしろおかしくいじってある部分もあるだろうけど、なかなか考えさせられる部分がたくさんありました。（4年女子）
（手塚先生ご自身，あの作品には納得がいかなかったと仰っておられました．先生の受け止め方とは違うのですが，私は私なりに，あの作品には評価できない点が多々あります．特に，釈尊の覚りの内容がマズイですね．）

釈尊が，梵天に菩提を説いて教えて欲しいといわれた時に、その説得に応じようとしなかったのは、「説いたとしても、自分自身が味わったそのままが相手に伝わるわけではないから、サンスカーラが生じてしまう。誤解が生じてしまう。」と、釈尊が思ったからですよね。確かに、誤解が生じてしまい、サンスカーらが生じてしまうと私も思うし、私が釈尊でも（有り得ませんが）そのように思ったと思います。しかし、考え方をちょっと変えてみるとそれも「サンスカーラ｣になるのではないかと思いました。「どうせ誤解されるから説かない」と、相手に対して思っても、もしかしたら、すごく可能性は少ないとは思いますが、分かってくれる人物がいるかもしれないのではないかと思いました。この世の中は摩訶魔可不思議だらけなのだから。（2年女子）
（たしかに確率は 0 ではないでしょうね．でもそのわずかな確率に賭けるだけだったら，押しつけがましい新興宗教の教祖とほとんど変わらなくなってしまいますね．彼の人間に対する洞察は大したもんだと感じています．ちなみに「摩訶」はサンスクリット語のマハー（大きい，立派な，大変な）に由来しています．）

心の平和を得ることが大切で、そこに行くまでの手段はどうでもよいという考えは、人それぞれ性質が違い、考え方も違うということを受け入れていて懐が深い感じがする。私自身、授業によって毎回仏教の教えの深さを学んできているという感じがしているけれど、インドにおいて、なぜ仏教に代わりヒンドゥー教が支持を集めるようになったのか不思議に思う。（2年女子）
（「仏教に代わり」ではなく，ヒンドゥーはいつでも優勢でした．結局多くのインド人はヒンドゥーが好きだったのですよ．特に，
　・仏教がインテリの宗教に走ってしまったこと
　・仏教が一般生活に浸透しなかったこと
　・仏教がカーストを否定したこと
などが仏教の衰退に拍車をかけました．）

「過去は後悔するものではなく、反省するものである。未来は不安がるのではなく、洞察するものである。」という言葉に、今日の授業で印象に残った。いつも、と言うぐらい過去の選択を間違っていたのではないかと、後悔を感じてしまう自分がいたので、この後悔という言葉ではなく、反省するという風に言葉を置き変えているだけのようだが、心の負担は軽くなるように思った。言葉一つだけでこんなにも人の苦を軽くできるものなのだと不思議に思った。（2年女子）
（ひどいことばで人を傷つけることも，やさしいことばで人を勇気づけることもできます．ことばのちから，できるだけ善い方向に使いたいですね．）

林檎の木の話の中で、釈尊が大切にしたのは、林檎が美味いとか食べに来いなどと言った通りのことが伝わったかどうかは分からない。大切なのはどのような方法でもよいから林檎を食べに行くことだとありました。このことは学問に通ずると思いました。教える側が言ったことを享受者は受け止め、それを享受者一人一人がそれぞれのやり方でよく考えていくことが学問において、最も大切なのだと思いました。（3年男子）
（そうですね．結局は自ら受けとめた上で自分で歩む必要がありますからね．）

リンゴの方に向かうという手段が、仏教でいう教えにあたるということでしょうか？（2年女子）
（リンゴに向かわせるための仏陀の呼びかけが，仏教でいう教えに相当します．）

先週はサンスカーラを排除し、全てのことを自分の目、耳で確かめるという形而上学的思考を停止する勇気のある釈尊に驚いたが、今回覚りをひらいてから、梵天に教えるかどうかというところで最初にそれを拒否した理由と教えを説くことを決めた理由に、更に釈尊の深さを感じた。やはり覚りをひらいた人間というのはすごいんだなと思った。釈尊の「覚りはすばらしい」ということを、その状況を経ていない相手はサンスカーラを通して見てくる。釈尊はそれを知っていたから教えを説こうとしなかった。そして、釈尊が教えを説くことを決めたのは、覚りの世界を説明するのではなく、覚りの世界に導くことが重要で、覚りの世界に到達するまでの手段は自由という考えによる。それから、後の六波羅蜜に関係するという、他者との関わりなしに修業は成立しないということ、自己の救いと他者の救いはリンクしているということ、何についても言えることだなと思った。一人で完成できるものなんかなかなかないと思う。（2年女子）
（よく勉強しています (^^) ）

仏教において大切なのは「心の平安」を得る事。最終的にそこにたどり着ければいいのでその方法は好きに選択して結構です。というこの考え方に、なるほどね、と思った。私は、教祖の言うことをただただ盲信して救われようとする考え方が理解出来ない。それは教祖の言いなりであってその人個人の意志・思想は全く含まれていないような気がするのだ。そしてこれはとても危険な事だ。だから、「教義」ではなく自分で考え自分で動いてつかみなさいという釈尊の教えはすごく理にかなっていると思った。けれど、選択の自由があるということは誰にも甘えられないし、全てが自己責任になるので今すぐ救われたい人には酷なのかもしれない、とも思う。（2年女子）
（そういう人のために，仏教にも様々なサンスカーラ（覚りに向かう方向で）用意されています．）

悟りに達するための手段が何でもいいということなら、どんな宗教でも悟りに達すれば同じということになってしまわないのかとふと疑問になりました。仏教でなければならない必然性を求めるとしたらどういうことになるのでしょうか。（2年女子）
（その必然性はありません．仏教はそういう宗教なのです．）

「これだけ信じていれば大丈夫」というものは決してひとつではなく、人それぞれ違うのだという釈尊の考え方に共感しました。自受法楽の話もとても分かりやすく、納得できました。釈尊は、輪廻に自分の存在を保証してもらわなくていいと考えていたとありましたが、そうすると来世のために良い業を残す必要は無くなり、禁欲生活や苦行はしなくてもよくなるのでしょうか？（2年女子）
（善い業は「来世のために」ではなく「心の平安のために」行なう，ということです．善いことをすると気持ちがいいでしょう？）

「神は死んだ！」の言葉で有名なある哲人は、「キリストは仏教徒だ！」と言ったそうです。結局、釈尊やキリストと、彼らを「超越者」として盲信するような人々とは何の関係もないということなのでしょう。（4年男子）
（あなたはニーチェの脈絡を取り違えています．ニーチェは仏教を「虚無主義」と早合点し，キリストを「現実逃避者」と勘違いし，結局的外れな発言しているのです．）

【総評】それがリンゴであれヘッチョコモッチョコであれ，食べたことのない人に味を「ことば」でそのままに伝えることはできません．それでも「ことば」に頼る決意を釈尊がしたときに，はじめて仏教は他に対して開かれていったのです．（鈴木隆泰）

宗教文化研究（仏教文化）

アジア文化論研究室

suzuki AT ypu.jp