10/5 アンケート1号の評価
アンケート1号(総数 33)の結果をお知らせします.「自分の意見が載っている,載っていない」「教員のコメントの内容」などは成績評価や回答内容の質には全く関係ありません.
複数の同一回答は,原則的に最初に目についたもののみを採用しました.
原文の一部を修正したものがあります.
男子・女子の区別は氏名に基づく判断です.もし間違っていたら遠慮なく申し出て下さい.
初回ということで,世界宗教の中での仏教の特異性について簡単に説明した後,次のような質問をしてみました.
仏教を知らない人から「仏教について教えて下さい」と頼まれました.彼/彼女に教えてあげて下さい.
- 仏教は,インドの釈迦族の王子であったガウタマ=シッダールタという人が覚りを開いてできたものである.しかしその形態は一様ではなく,様々な形態がある.例えば日本では,浄土真宗や禅宗など多くの宗派に別れており,同じ仏教であっても,異った信仰を持っているのである.このことからも,同じ世界三大宗教の中でも,キリスト教やイスラームとは性質を異にするものであることが分かる(2年女子)
(キリスト教やイスラームにも諸派がありますが,仏教の多様性はずば抜けています)
- 日本では仏教を信仰している人は多い.けれども,ブッダになろうという信念を持っている人は少ない(2年女子)
(そうですね.でも,「いつまでもブッダにはならない」という信念を持つことが場合によってはあったり,逆に,「あっという間にブッダになれる」という考え方もあったりして,なかなか複雑です.この件はいずれ詳しく扱うことにしましょう)
- インドで釈尊という人が開いた宗教で,やがて中国や日本,その他の幾つかの国に広まったもの.現在ではインドでは信仰者は余り多くはなく,中国や日本などでは多い.
仏教の中にはたくさんの種類があり,大乗仏教と小乗仏教という二つの大きな種類に分けることもできる.日本の仏教は大乗仏教が主であり,厳しい戒律などはないが,東南アジアにある宗教は,小乗仏教的なものがある.小乗仏教徒は,厳しい戒律や修行があり,それを行うことによって自らが救われていくというものである.
仏教の基本的な考えの中に,人は死んだ後,またこの世に生まれ変わるという輪廻転生がある.また,いいことをした人は極楽へ,悪いことをした人は地獄へ落ちるという考えがある.
日本の仏教について言うならば,仏教は形式化しており,キリスト教やイスラームの様に,信仰という感じはあまりない(3年女子)
(なかなかの大作です.「小乗仏教」というのは大乗仏教側からの蔑称ですから,講義が進むにつれ使うことはなくなっていくと思います.輪廻転生が仏教の基本的な考えであるかどうかという点は,仏教という宗教を考察する上で非常に重要な問題を含んでいます.このことについてもいずれ詳しく説明します)
- 世界宗教の中で,日本人に一番身近な宗教.仏教で唱えられるお経は漢字で書かれていて,その一字一字にとても深い意味がある.私のイメージでは,仏教は主にアジアの人たちに信仰されている宗教.僧は頭を丸め,袈裟というものを着ている.
日本ではだいたいお葬式は仏式で執り行われる.お坊さんのお経やお話を聞くときはみんな正座する(3年女子)
(仏教経典はもとはインドのことばで書かれていました.それを中国語に翻訳したのです)
- それぞれの宗派によって唱える言葉が違う.お経は漢字ばかりで読んでも意味が分からないが,唱えると救われるらしい(2年女子)
(漢文ですから読めば分かりますよ.授業中に少し読んでみましょうか)
- 仏教は古代ヒンドゥー教から分離した宗教で,その成立過程において,キリスト教やイスラームのように,他の神の存在や異る教えの存在を否定することなく,むしろあらゆる神とあらゆる教えの解釈を受け入れてきた,極めて寛容な性格を持った宗教である.創始者である釈尊はその覚りの中で,人間に存する四苦(生老病死)から解放されることが真の救いであると考えた(2年女子)
(なかなかよろしい.ただし残念ながら「仏教は古代ヒンドゥー教から分離した宗教」という部分は正確ではありません.「バラモン教を土台とし,それを乗り越えた」というべきです)
- ユダヤ教・キリスト教・イスラームは砂漠で生まれた宗教であるため,厳しい環境を生き抜くために自然と闘うという発想があるが,仏教は自然の豊かなインドで生まれたため,共存していこうという姿勢がある.
仏教の経典はもともとはサンスクリットなどインドの言葉で書かれていたが,中国人が漢訳したものが日本に伝わってきた(2年男子)
(その宗教が生まれた地域の相違は,その宗教を性格づける大きな要因です.なぜならば,宗教はそこに住む人々によって育まれるからです.それから,インドの仏典を漢訳したのは中国人ばかりではなく,インドや西域の人たちもいます)
- 日本の仏教には最澄・空海・日蓮・一遍・栄西・道元などによる様々な宗派が存在し,大部分の日本人はそれらを信仰している(3年女子)
(有名どころでは他にも法然・親鸞があります)
- 仏像や仏教絵画などの芸術の面で,また,精進料理などの食文化の面で,日本の伝統文化の一つとしての役割を担っている(2年女子)
(そうですね)
- 余りに宗派の勢力が強くなりすぎて,戦国時代に織田信長に焼き討ちにされてしまうという事件もあった(2年女子)
(延暦寺の焼き討ちのことですね.「仏教が宗教としてあり続けること」「宗教と権力の関係」などを考えさせられる事件です)
- 現在では信仰というより,生活習慣に近いものになっていると思う(2年女子)
(それは一面では「仏教の浸透」とも言えますが,「仏教の非宗教化」という側面のあることも見逃せません)
- 日本の家庭では,仏教の教えに従って生きるというよりも,選択的に生活に取り入れている.お盆やお葬式などの儀礼の時には仏教スタイルで行なうが,普段の生活では仏教の教えに従って生活するということは余りないように感じる.つまり,日本人にとって,仏教は身近な宗教ではあるけれども生活を規定するものではなく,生活の中に選択的に取り入れられている場合が多い(2年女子)
(そうですね.これも,ユダヤ教やイスラームなどのように生活全般を宗教が規定するタイプの宗教と,仏教との違いです)
- 仏教では,人は死んでもまた生まれ変わると考えられていて,何に生まれ変わるか,どういった宿命に生まれるかは,それまでの行ない(業)に左右されるとする.この生まれ変わりは六道と呼ばれる世界の中でひたすら繰り返されて,生きる苦しみから逃れることができないと考えられている.生きること,老いること,病むこと,死ぬこと,この四つを四苦と言い,この四苦に満ちた世界である六道から,覚りを得て抜け出すことを解脱と言う.
また,仏教には様々な教え・宗派があり,だいたいにおいて自分の教義を押しつけないのだが,法華宗(日蓮宗)は他宗派を認めず,折伏を行なう(3年女子)
(なかなかよく知っていますね.でも若干の補足をしておきましょう.まず,「生きる苦しみ」ではなく,「生む苦しみ,生まれる苦しみ」です.それから,法華宗(日蓮宗)の折伏には,一見すると「宗教の押しつけ」と捉えかねない側面があるのは事実です.問題は折伏する側の心のありよう・人格に関わってくるもので,これも講義で扱うことにしましょう)
- 仏教はインドで生まれ,その後中国やチベット,東南アジアなどに伝播していった.日本には中国ルート(北伝)で伝わってきた.世界宗教としてキリスト教,イスラーム,仏教の三つを挙げることができるが,その中で仏教と他の二つとの大きな違いは「キリスト教,イスラームには唯一絶対の神が存在し,聖典は一つである.それに対し,仏教には唯一絶対の神は存在せず,その代わりに真理が存在する.聖典もたくさんある」ということである.このことから,仏教は多様性に富むという特徴を持っていることが知られる.←以上,授業のまとめです.
これまで私の触れてきた仏教は,葬式などの儀式,小さい頃通っていた日曜学校くらいです.特にそれ以上の知識もなく,思い入れもありません.逆に,宗教ははまるとこわい!! くらいに考えています(それは間違いなのかも知れませんが...).
たしかに仏教のことはほとんど知りませんが,全く関わっていないと言えば嘘になるでしょう.人生の区切り区切りの場面で無意識のうちに,実は仏教と関わっているのかも知れません.しかし,日本人(少なくとも私の周りの人たち)にとっては,この程度の関わりしかないのではないでしょうか(2年女子)
(「無意識のうちに関わっている」というのは本当だと思います.この講義を聴いて,理解を深めていって下さい)
【総評】なかなか詳しい学生もあって次回からが楽しみです.なんとか張り切って「仏教の神髄」にお互い迫ってみましょう(鈴木隆泰)
suzuki AT ypu.jp